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ブラッドボーンがおまえを真の男にしてくれる

2017/01/23

ブラッドボーン 

よく来たな。正月も終わり、気がつけば1月も終盤に差し掛かろうとしている。この一年のはじまりに、おまえはなにをして過ごしていた? おそらく腰抜けのおまえはいつものように流行りの映画をそそくさと見に行ってはあたりさわりのない感想をツイッターに投稿したり、しょぼいメシの写真やら自撮り写真やらを誰にも頼まれないのにせっせとインスタグラムにアップロードして自分のみみっちい世界を守るのに必死だったのだろう。あるいは噂の新型ゲーム機ニンテンドースイッチの予約に忙しかったかもしれない。俺も予約した。
そうして翌朝からはじまるつまらない仕事にため息をつき、なんてつまらない人生なんだというむなしい感慨から目をそらし、つとめて忘れるようにしながら眠りにつく。そうこうしているうちに1月は終わり、2月も終わり、気がつけば1年が過ぎている。なにごとにも熱くなれず、大事なことがなにかもわからぬまま、場末の酒場で出会ったベイブと乳繰り合い、犬のように交わり、子を生み育て……やがて老いて死ぬ。THE END OF MEXICO……。だがおまえがプレイステーション4を所持し、真の開拓精神をもっているなら話は別だ。まだ遅くはない。おまえにはブラッドボーン(DLC入り)をプレイするという選択肢が残されている。

もしおまえがスマホゲームにかまけてプレイステーション4のひとつも持っていないような腰抜けなら、もう俺から言うことはなにもない。今日も明日もそのあともずっと通勤電車の中でうつむきながらスマホをいじり、ときには自撮りをすればいい。
ブラッドボーンの世界ではそんな腰抜けは二秒と生きられはしない。自撮りをしている奴は死ぬ。
ブラッドボーンの舞台は古都ヤーナム。おまえはなにやらよくわからない病気にかかり、治療法を求めてここに来た。おかしな老人に改造手術をされて目覚めると一切の記憶を失っていた。薄暗い病室で目覚めたおまえは、ふらふらと外に出て、いきなり巨大な獣に食い殺される。だが心配しなくていい。この敗北はあらかじめ定められたもので、いわばファイナルファンタジー2における最初の戦闘と同じだ。
不思議な夢の世界で再び目覚めたおまえは、そこで獣を狩る狩人としての武器を与えられる。そうしておまえは病室へ舞い戻り、先程の獣に復讐する。この街に来て最初の復讐をとげたおまえの両手は、おびただしい量の返り血に染まっているはずだ。それはおまえ自身の新たな誕生の証であり、単なる腰抜けから真の男へと一歩近づいた証なのだ。

それでもどこか物見遊山でヤーナムを探索するおまえは、この街の連中が全員例外なく鉈や鍬や鋤あるいは銃器で武装し、こちらを見るやいなや問答無用で襲い掛かってくることに気づいて衝撃を受けるだろう。ここではだれもが血に飢え、血に酔っている。おまえが住んでいるカリフォルニアのように怠惰と安穏にまみれた地ではない。そう、いわばここはメキシコだ。ここで生きていけるのは真の男だけだ。自撮りをする奴から死んでいく。
そして甘ったれたおまえは、道端に落ちているアイテムをなんの疑いもなく取りに行き、死角に隠れていた男に背後から刺し殺されるだろう。これまでのゲームにおいて赤ん坊がミルクを与えられるように何の苦労もなくアイテムを入手してきたおまえは、またしても衝撃を受けるはずだ。そこでゲームを投げ出すか、教訓を得て成長につなげるかはおまえ次第だ。
アイテムを見つけたら、まず周囲を確認しろ。というか、むしろアイテム自体を罠の一種だと思って注意深く行動しろ。そうやって苦心の末に手に入れたアイテムの数々は、いろいろな意味でおまえを強くし、真の男へと近づけてくれるだろう。

やたら尖った農具を持った男たちがうろつく危険な街を通り抜け、やがておまえはボスと遭遇するだろう。順当に進んでいれば聖職者の獣か、ひねくれた道を進んだ場合はガスコイン神父に出会い……そしてごみのように一蹴されて死ぬ。
このゲームのボスは本当にタフな連中が揃っている。テキーラの産湯で生まれ、三食すべてタコスかドリトスだけを貪り、砂漠のように乾いた土地で育っている屈強な男たち。いわば真のメキシコ人だ。初見で勝つのはおまえがダニー・トレホでもない限り難しいだろう。奴らの一撃は早くて重く、おまえが着ている服をやすやすと貫通し、死に至らしめるだろう。何度も、何度も……。
このゲームのボスはそこらの攻略動画を見た程度で倒せるほどやわではない。もちろんイージーモードなどという女子供向けの機能は付いていない。攻撃パターンを知り、そのタイミングを身体でおぼえ、見切って回避し、攻撃を叩き込む。おまえの与えるせこいダメージを一瞬でチャラにする凶悪な攻撃の数々を延々とさばいていかなければならない。
そうして戦いを制し、狩りを遂行したおまえはかつてない歓喜に包まれるだろう。喜びのあまりそのへんのちんぴらを殴って怪我をしたり、どこかの安酒場でテキーラを浴びるように飲み、酔いにまかせて見知らぬベイブとファックし、気がついたときには裸で路上に放り出されている……それほどまでに大きな高揚感と達成感を味わうことができるはずだ。
どうしてもボスに勝てない腰抜けのおまえには、最後の手段として協力プレイが残されている。目には目を。歯には歯を。屈強なメキシコ人には、より屈強なメキシコ人を。オンラインプレイ用の鐘を鳴らせば、異世界からやってきたメキシコ人がおまえを助けてくれる。仲間に頼るのは恥ではない。アントニオ・バンデラスさえも敵地に襲撃に行く前に仲間を呼び集めていた。勝つためには手段を選ぶな。
だが、このゲームはブラッドボーン……仲良しごっこのお遊戯をさせてくれるほど甘くはない。協力プレイをすると同時に、不吉な鐘の音とともに「敵対者」と呼ばれる狩人がやってくることがある。これはオンラインプレイでおまえを殺しに来たプレイヤーであり、おそらくおまえが見たこともない未知の武器を持っているはずだ。ゲーム発売から2年が経過した今も飽くことなく敵対プレイを行っているということは、すなわち長年鍛え抜かれた真のメキシコ人であり、奴隷バーを何年も回し続けて強くなったアーノルド・シュワルツェネッガーであり、間違いなくステータスや装備は対人用に特化されているのでまず勝ち目はない。
対人戦のことは忘れ、とにかくおまえはこのゲームを最後までクリアすることだけを考えろ。そしてエンディングの意味深さに呆然とし、あわてて考察サイトやら裏設定を読んで、どれだけ自分が多くのことを見落としていたのか愕然とすればいい。俺は愕然とし、このゲームの奥深さに触れてさめざめと涙を流した。この時代にこの傑作というほかない素晴らしいゲームをプレイできた幸運と、それを産んだメキシコの偉大さに感謝した。

つい最近、俺はDLC「The Old Hunters」をクリアした。DLCが出た直後に購入してダウンロードまではしていたが、今の今までプレイしていなかった。
忙しかったとかいろんな理由はあるが、それらはすべて言い訳に過ぎない。ブラッドボーンをとりあえず1度はクリアしたという過去の栄光に縋り、DLCに挑戦するのを心のどこかで恐れていたのだ。
だが俺は怯懦を乗り越え、一歩を踏み出した。真の男になるためだ。
DLCの舞台となる「狩人の悪夢」では、スタート地点の建物を出てすぐのところにいる狩人が見たこともない蛇腹剣のようなものを振るってきて即座に死ぬ。
赤い血のような英語で表示される「おまえは死んだ」という文字を見て、俺は久しぶりに怒りと喜びの入り混じった強い興奮をおぼえ、そして泣いた。早くこのDLCをプレイしなかったことを後悔した。
そう、まるでここはメキシコだ。全体的に砂漠っぽく、プレイしているだけで口の中が渇き、体力回復に使う輸血液がテキーラに見えた。ここには愛しさや優しさや心強さといった人間の善性は存在せず、フェイスブックやインスタグラムのような文明も存在しない。自撮りをする奴は死ぬ。
メキシコの住人は皆、右手に打撃武器、左手に銃器を持っている。あるいは両手に巨大なポールウェポンを装備しておまえを待ち構えている。本編と同じかそれ以上に何度もおまえは死ぬ。
けれどその死が、おまえを鍛え、少しずつ強くし、真の男へと近づけてくれる。

俺はDLCをクリアしたと書いたが、実のところDLCのボス撃破後、最後の最後でとあることをやり残しており、DLCのエンディングを見ていない。DLC武器を全部集めたトロフィーを獲得したことで浮かれ、歓喜のあまりテキーラを痛飲して、ホットなベイブとベッドで戯れ、その勢いでうっかり本編をクリアしてしまったのだ。本編をクリアすると自動的に次の周回がはじまり、クリア前には戻れない。当然DLCステージもクリア前の状態に戻っている。
ブラッドボーンの二週目はいわゆる「つよくてニューゲーム」だが、正確には「敵が超つよくてニューゲーム」であり、ようするに自分よりも敵のほうが強くなっている。ラスボスを屠ったプラス10武器であっても最初の町民を殺すのに数回攻撃しなければならず、町民の農具がかすっただけで即死する。生き延びるためにはほんの少しの油断も許されない。二週目のヤーナムは、いわば真のメキシコなのだ……。

俺はトロフィーを全部取るために二週目の地獄をクリアするつもりだ。延々とここまで読んだおまえはどうだ? つべこべ言わずにプレステ4を購入しろ。今なら異常なボリュームを誇るDLC入りのブラッドボーンが3000円とかで買える。セールのときは半額になったりしている。
それでも買わない奴に、もう言うことはない。カリフォルニアで享楽に満ちた日々を送り、子や孫に囲まれながら老人になり、自分が何者かもわからなくなるまで生きればいい。
だが、もしおまえが腰抜けでなくタフガイなのだと言うならば、今こそブラッドボーンに挑戦し、そのことを示すときが来たのだ。

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12/30冬コミ宣伝と、どうでもいい話

2016/12/30

直前ですが冬コミ2日目、いちおう新刊小説出ますのでよろしくです。

まあ、それだけです。
それだけ書くためのブログ更新なんですが、あと一つだけしょうもないことを書きます。
最近、映画「セッション」を見て、かつてないカタルシスを味わいました。

(以下、映画のネタバレを多量に含みますゆえ)

まあ、本筋としては本当に嫌な話ですよ。
アメリカの有名(たぶん)音楽学校に通うドラマーの少年ニーマンが主人公なんですが、その指導にあたる先生が「響け!ユーフォニアム」に出てくる眼鏡先生から眼鏡と毛髪と若さを取って中身をハートマン軍曹にしたような恐ろしい人なんですよ。というか率直に言えばハートマン軍曹そのものなんですよ。
で、その先生に言葉責めですごい屈辱を味わわされて、ときには椅子を投げつけられて、「テンポが遅い!」とか言われ延々とビンタを食らわされるような日々を送ります
ニーマンは「悔しい!」とそこで一念発起し、指から血を流すほどに練習するわけですよ。で、ハートマン先生にちょっとずつ認められていく。
ここまでは普通にいいスポ根です。
そんなこんなで、付き合いはじめたばかりの彼女に「君がいるとたぶん練習のじゃまになるから」というクズっぽい理由で一方的に別れ話を突きつけつつ、ニーマンはドラム主奏者の座を勝ち取りました。
大学でアメフト選手として活躍している兄貴に「でもそれって三部リーグの話でしょ?(笑)」などという自我が肥大しきったセリフを吐き、そろそろハイパー化してもおかしくないほど調子にのりまくるニーマンですが、大事なコンテストの日に少しいろいろあって大怪我をして会場に現れます。
スティックもまともに握れない有様ですので、当然演奏は大失敗。
もちろんハートマン先生はブチギレです。
ニーマンもうっかりブチギレて先生に殴りかかります。ブチギレ音楽祭りですよ。

そしてニーマンは退学になりました。
別の大学に入り直し、新しい生活をはじめて音楽とは縁のない生活をしていたニーマンですが、通りがかったジャズバーで偶然ハートマン先生と再会します。彼はまるで憑き物が落ちたような穏やかな顔で「久しぶりだな」とニーマンに声をかけます。
先生はいきすぎた指導方法を問題視され、音楽学校を解雇されていました。ただあれは、生徒に成長してほしいと願っていたからなんだ……と苦笑交じりにニーマンに語ります。
「実は今度の音楽祭で指揮をするんだが、ドラマーの質が十分ではないんだ。代役を探してる。曲は学校でやっていたような『ウィップラッシュ』や『キャラバン』で、そのへんができるやつがいいんだが……言いたいこと、わかるだろう?」
いきなりデレてきた先生の誘いを二つ返事で引き受けるニーマン。
一時期殺したいほど憎んでいた先生とも和解し、長年満たされなかった承認欲求がもりもりと満たされ、ウキウキ気分です。
やっぱり俺にはドラムしかねえ。うん、ドラムっていいよね! ドラム最高!
浮かれついでに、別れた彼女にも電話します。
「あのさ、実は今度JVC音楽祭ってのに出るんだけどさ…」
「うーん、今の彼がそういうの好きじゃないかも。いちおう聞いてみるけど…」
「え? あっ……そ、そーだよねー、ですよねー」
微妙にへこみつつ、それでも俺には先生に認められたドラムがあるさ! 審査員の目に止まればまた世にでることも夢じゃない!……と迎えた音楽祭当日。
ハートマン先生の指揮のもと開始された曲は、ニーマンがまったく知らない演目でした。
先生から事前に伝えられていた演目は、すべて嘘だったのです。
愕然とするニーマンに、先生はすさまじい憎悪を込めた顔で言い放ちました。

「おれがなにも知らないとでも思っていたのか? おれがクビになるよう学校に密告したのはおまえだろう?」

退学になった直後「横暴なハートマン先生を告発する会」みたいなところの弁護士から匿名での証言を求められ、やけっぱちになっていたニーマンはそれに応じてしまっていたのでした。
その報復としてニーマンをわざわざ自分の楽団に誘い、嘘の演目を伝え、そして当日ステージの上で赤っ恥をかかせるというとてつもない策士ぶり。こんな大人げない大人はじめてみました。
先生の罠にまんまとはまったニーマンは、それはもう悲惨なことになりました。
練習もしていない知らない曲なのですから、まともに演奏できるわけもなく。生き地獄そのものの時間が過ぎ、もはやニーマンのライフは完全にゼロです。

「計画通り」というコラがとても似合う笑顔を浮かべながら「それでは次はスローな曲を…」と気分良くつづけようとしたハートマン先生の言葉を遮るように、痛烈なビートを刻むドラム音が鳴り響きました。
ニーマンが勝手に演奏をはじめたのです。
横の吹奏者が「ちょ、自分なにしとんねん」と慌てますが、ニーマンの鬼気迫る演奏につられて「キャラバン」の演奏をはじめてしまうのでした。

……と、そういう話の映画で、ようするに音楽で生まれた憎しみから音楽を使って仕返しする人々の話であり、音楽で殴ったり殴られたりと、あまりほめられたものではないです。
それでも俺たちが、ラストシーンで勝手にドラムを叩き出したニーマンに諸手を挙げて拍手したくなるのは、言うまでもなくきっと俺たちもニーマンと同じような境遇だからでしょう。
周囲の人々は自分の知らない曲を颯爽と演奏しているのに、自分だけがうまくそれをできない。
それなりにうまくできると思っていたのに、気がつけばこのありさま。ニーマンは先生にハメられたわけですが、俺たちはべつに誰にハメられたわけでもない。もしかすると自業自得なのかもしれませんが、そんなの慰めにもならない。
スティックを振るタイミングはさっぱりわからず、それでも曲は次々とはじまっては終わっていく。
同じステージにいる人々は次々と曲をこなし、喝采を浴びていく。
まあ、それでもいいんですよ。だって死ぬわけじゃないし。
ニーマンだって、実家に帰れば優しいパパがいて、傷ついた息子を暖かく抱擁してくれます。おそらく学校だって仕事だって世話してくれるでしょう。生きていくのになんの支障もありません。
それでもニーマンが勝手に演奏をはじめたのは、早い話がエゴというか自分勝手というか、ほとんどテロ行為みたいなもんですけれども、やはりどうしても喝采を送ってしまう。
だって頑張ってたものな。
血が出るまでドラム叩いてたもの。
そのニーマンの頑張りは、世界中でニーマンだけしか知らない。でも観客の俺たちは知ってますよ。そして思いましたよ。
自分は今までそこまでなにかに一心に打ち込んだことがあるのか?って。
そこまでやれるニーマンがちょっとうらやましいとすら思うはずですよ。
これだけ頑張ってるニーマンが成功しないなんて嘘だよねー良かったねという期待や祝福と、でもそれってなんかちょっと妬ましいよな……っていう複雑な思いを抱えた面倒くさい大人たちに対するアンサーがあのラストシーンで、まあ見事に刺さりました。
最後のセッションを通じてニーマンと先生が理解し合えたっぽいとか、いろいろいいテーマも盛り込んであるのですが、個人的には「持たざる者である凡人が空気を読まず派手に一発ぶちかましてやった」という意味で心に刺さりました。

ドラマーにはなりたくない。
でも来年はもっとがんばろう。

怖がりの先輩の話

2016/11/13

 小学校に通いはじめる少し前。街に点在する桜の木々がその存在感を増しはじめる季節。いつも遊んでいる公園に見知らぬ男の子がいる。彼は錆びた鉄骨で組み上げられたジャングルジムの頂上に登り、高らかに叫んでいる。
「ぼくには怖いものなんか一つもないぞ!」
 本当かな、と思った私は男の子をジャングルジムから引きずり下ろし、その頭をグーで思いきり殴る。すぐに取っ組み合いの喧嘩になる。互いに叩き合い、服を掴んで突き飛ばし合い、髪を掴み合い、頬の肉を伸ばし合う。
 長い長い戦いの末、僅差で私が勝利する。
 馬乗りになった私に組み伏せられながら、彼は言う。
「今日、怖いものが一つできたよ」
 と、怯えた目をしながら私を指差す。その日以来、彼の怖がる顔を見るのが私の趣味になる。


 彼は私より一つ年上である。
「ぼくのことは先輩と呼んでくれ」
 同じ小学校に入ると、彼はそんなことを言う。とくにこだわりもなかったので、私は彼を先輩と呼ぶようになる。
 お昼休みや放課後、先輩に会うと私はきまってこう尋ねる。
 先輩には、今なにか怖いものがある?
 夏休み明け、子供たちの声が飛び交う校庭。五年生になり、顔を日焼けさせた先輩は少しだけ考えて、真剣な表情で答えを口にする。
「やっぱり、きみが一番怖い」
 私は満面の笑みを浮かべて、彼の背中に蹴りを入れる。そして必死の形相で逃げまわる彼に追いすがってすっ転がし、ズボンを脱がしてやる。


 先輩は、今、なにが一番怖いの?
 中学生になって私の背を追い越し、似合わない眼鏡をかけるようになった先輩に私は問う。
「自分が無意味な存在かもしれない、ということがぼくは怖い」
 そんな答えが返ってくる。いつの間にか私よりも怖いものができたらしい。
「この世界、いや宇宙に……ぼくは、いったいなんの意味を持って生まれてきたのだろう。最近はずっとそんなことばかりを考えている。その考える行為そのものを含めたすべてが実は無意味なんじゃないかと考えると、ぼくは夜も眠れないほどに怖くなるよ」
 その日は強い木枯らしが吹いていて、街の向こう側に落ちていく夕日が下校する生徒たちの影を長く伸ばしている。帰り道、肩を落として力ない笑みを浮かべる先輩に私は言ってあげる。
 うん、先輩は無意味で無価値な存在かもね。
「ええっ……?」
 眼鏡の奥の少しうるんだ瞳に向かって、私はなおもつづける。
 勉強も運動もそれなりだし、とりたてて面白いところがあるわけでもないし。いろいろクラスの面倒ごとを押し付けられて毎年なにかの委員長をやったりするあたりが存在価値と言えなくもない……かもしれないけど、宇宙的な視野で見ればほんのチリみたいなもんだと思う。
「そ、そうなのだろうか……ううう」
 頭を抱える先輩を横目に、私はひそかにほくそ笑む。さっき「とりたてて面白いところがない」などと言ったのは嘘だ。なにかを怖がる先輩は、私にとって最高に面白い存在である。


 先輩は高校生になると生徒会に入り、校内運営におけるさまざまの手伝いをやらされるうち、なかば祭り上げられるようなかたちで二年生の冬には生徒会長になってしまう。
 ちなみに私も同じ学校に入学し、なりゆきで副会長の座におさまっていたりする。
「……ぼくが今、一番怖れていることがなにかわかるかい?」
 数日後に迫った校内行事の雑務のため、放課後に二人で黙々と書類作成をやっていると、訊かれてもいないのに先輩はそんなことを言い出す。
 下校時間はとっくに過ぎている。もう他の生徒会メンバーは帰ってしまい、生徒会室には私と先輩の二人しかいない。
 いいからとっとと仕事をしてください、という私の言葉を無視して先輩は語りはじめる。
「ぼくは……女性のおっぱいを見ることもさわることもなく生涯を終えるのではないか……そのことが一番怖ろしい」
 あっけに取られつつも、私は質問する。少し前まで、自分の存在の意味がどうとか言ってませんでしたっけ?
「そんなことは、もうどうでもいいんだよ!」
 眼鏡の奥の目を大きく見開いて、彼は力強く叫ぶ。
「むしろ人生の意味や価値っていうのは、おっぱいをさわれるかどうかで決まる。それが人生のすべて……そう言っても過言ではないんだよ。人生すなわちおっぱいであり、世界これおっぱい。宇宙もまたおっぱいである。しかし宇宙に存在するありとあらゆるおっぱいは、二つに大別される。ぼくがさわることができるおっぱいと、ぼくがさわることができないおっぱい……言うまでもなくその二種類だ。服と下着に隠され、ぼくから観測することができない女性のおっぱいは、その二種類の可能性を常に併せ持つ。つまり二つの状態が量子的に重なり合っているんだ。……ここまではわかるね?」
 いいえわかりません、と私は冷たく即答する。少なくとも私の胸は量子的に重なり合ったりはしていない。
「ふう……やれやれ」
 肩をすくめながら首を振る先輩。むかっとしたので何年かぶりに先輩の顔面をグーで殴る。
「ぐあっ!」
 うめいて鼻をおさえる先輩に向かって、ゆっくりと私は聞く。自然に低い声になる。
 ねえ、もしかして先輩って、私のことを女だって思ってないんじゃないですか?
「えっ……?」
 先輩はおそるおそる、という感じでうなずく。
「う、うん……きみはなんというか、ぼくにとっては妹みたいなもんだよ。少々、凶暴な」
 私はさらにもう一発、先輩を殴る。もちろんグーで。


 そうして、私たちの間にいくつもの四季がめぐる。
 桜の花が舞う季節の、とある日の夜。
 私の目の前のテーブルの上には、指輪のケースが置かれている。
 その箱の中には、先輩が貯金と初任給をつぎ込んで買い求めたであろう指輪が納められている。
 その円環には、ささやかな輝きをまとう小さな宝石があしらわれている。指輪を挟んだ向こうには スーツ姿の先輩が座っており、ひどく神妙な面持ちで私の言葉を待っている。
 ふと気になって、私は訊いてみる。
 先輩が今、一番怖いことってなあに?
「えっ?……な、なぜ今、そんなことを言うんだい?」
 額に汗を浮かべ、真っ青な表情で彼は訊き返す。これまでに見た中でも最高の部類に入る素晴らしい「怖がり顔」をしている。一番好きな表情。私の大好きな顔だ。
「そんなの決まってるじゃないか。きみの返事を聞くのが……今、一番怖いよ」
 願わくば、先輩のその顔をずっと見ていたい。そう思いつつも、私は贈られた指輪を握りしめて、とある言葉を口にする。



「ようやく眠ったね」
 私の腕に抱かれ、静かに寝息をたてる娘をのぞき込みながら、先輩は言う。
「ぼくが抱っこしたら必ず泣き出すのに、きみだと一発で泣きやむんだものなあ……」
 苦笑しながら、そっと赤ん坊のほっぺたをつつく。
 この子はね、と私は彼に教えてあげる。
 この子はね、きっと先輩の困る顔が見たくてわざと泣くんですよ。
「そ、そうなのかい?」
 そうですよ。だって私の娘ですもの。
「うーん、それは困ったなあ」
 さほど困ったような顔をするでもなく、先輩は微笑みながら娘の顔を見つめている。
 そこで、私は問いかける。
 彼に対してこれまで幾度もしてきた、例の問いかけ。
「……今、一番怖いこと、かい?」
 先輩は首をかしげ、しばし考えるそぶりを見せる。やがてゆっくりと両の腕を伸ばし、私と私の抱く我が子をいっしょに包み込むようにしながら、おだやかな声音でささやく。
「この幸せが、いつか終わってしまうかもしれない。それが一番怖いよ」
 さして怖くもなさそうな先輩の弛緩した表情を眺めながら、私は静かに考える。
 もしも今、この小さな娘の細い首を突然へし折ったら、いったい彼はどんな顔をしてくれるのだろう、と。

モーニングスター男子

2016/10/18

ある夜のことだ。
ぼろ雑巾のように働き、泥のように眠っている俺の枕元に武士が座っていた。
その男は武士というか、どちらかと言うと落ち武者という感じだった。ざんばらの頭はちりぢりにほつれ、肩には折れた矢が突き立っていて、いっそう落ち武者感に拍車をかけていた。

仰天して声も出ない俺に対し、その落ち武者は大きく肩を落としつつも正座の姿勢で、フォントにすると淡古印っぽい低くしわがれた声音でおもむろに語りはじめた。
「最近、ちまたでは刀剣男子というものが流行っているではござらんか」
どれだけ話題に脈絡がないんだよ。お前は俺のクラスメイトかなにかかよ。
俺の心中を察するふうもなく落ち武者は言葉をつづけた。
「だから拙者は思うのでござる。そろそろモーニングスター男子の時代が来てもいいと」
「いやいやいや、そんな時代が来てもいいわけはないだろ」
ようやく声が出た。
珍妙な時代の到来を否定する俺の言葉に対し、さも心外といった表情を浮かべる落ち武者。少しイラッとして俺は質問した。詰問になっていたかもしれない。
「……いったいお前は突然なんなんだ。落ち武者っぽい風体のくせにどうしてモーニングスター時代の到来を望むんだ」
「前者の質問については、そう、拙者は守護霊……お主の生命エネルギー……いや生命エナジーが著しく低下したので心配になって枕元に立った次第」
なぜエネルギーをわざわざエナジーと言い直したのか。というか、それ以前にいろいろ言いたいことはあるが……。
おそらく微妙な表情をしているであろう俺にかまわず、落ち武者はとうとうと語った。
「そして後者の質問……拙者とモーニングスターとの関係。それは一言で言い表すことはでき申さぬ。それをあまさず語るには相当の時を要するでござる。それこそ夜明けの星が見える刻限にまで及ぶでござろう……モーニングスターだけに」
心が疲れているとき、この手の「うまいこと言ってやった」系の言葉は本当に頭にくる。
「と、そういうわけでですね、モーニングスター男子の話なんですけれどもね」
身も蓋もなく武士口調をかなぐり捨てながら、落ち武者は強引に話題を戻した。どうしてもモーニングスター男子とやらの話をしたいらしい。
「わかったわかった。で、お前はどういうキャラを考えているんだ。モーニングスター男子とやらの」
「えっ? えーと、あの……なんだろう……いつもトゲトゲしくてドSっぽい男子、とか」
「ありがちというか、それ以外に思いつかんからな。他には?」
「うーんと……こう、さわるとチクチクしてる男子……とか……」
俺はキレた。
「お前、言い出したわりにさっぱり具体性がねえじゃねえか!」
「仕方なかろう! モーニングスターはウィキペディアにもたいした情報がないのでござる! エクスカリバーみたいないわくつきのモーニングスターもなさげだし!」
落ち武者はキレ返してきた。くそっ、こいつかなり面倒くせえ。なにが守護霊だ。なにがウィキペディアだ。たぶん自称守護霊の地縛霊とか怨霊とかそういうよくない感じのあれだ。
「どだい無理なんだよ、モーニングスターが主役になるなんて。正宗とか村正とかそういう固有のキャラクター性が皆無だし」
「むう……オンリーワンになれないのならば……ナンバーワンになるしかないでござるな」
したり顔で落ち武者は言ったが、意味はわからない。
「いや、それも絶対無理だしさ……」
「しかし実際、刀は使うのに高度な技術が必要でござる。すぐに刃こぼれしたり折れたりと信頼性もいまいちでござる。しかしモーニンスターであれば、相手を思い切りぶっ叩くだけでいいのでござる。それでトゲがうまいこと甲冑とかを突き破って致命傷をたやすく与えられるのでござる。マジ刀とか超いらね」
「……ほんとお前、なんで武士の姿で出てきたんだよ」
言語の乱れが甚だしい。
「生前に拙者がもしモーニングスターを手にしていたなら、今もまだ鎌倉幕府がつづいていたでござろうて……」
「どこまでモーニングスターの力を信じてるんだよ。ていうかお前、そんな昔の時代の人間なのかよ。まあ、もうこいつの中ではそういう設定なんだとこっちで勝手に納得するけどさ……」
「……そんなこと言うなよ!」
なぜか落ち武者が苦しげな裏声で言った。まったく意味がわからない。
「別れ際に、”設定”なんて…そんな悲しいこと言うなよ…!」
また裏声だった。
「……」
「……」
かなりの間があってから、俺はそれが碇シンジ(CV:緒方恵美)の物真似なんだとようやく気づいた。
「……そんなこと言うなよ!」
「うるさいよ! それ、おそろしくわかりづらすぎるし、さっぱり似てないし唐突っていうかもう、なんなんだよお前……って、別れ際?」
「そうでござる。名残惜しけれども、訪れたる別離の時……」
まったく名残惜しくはなかった。
「けっきょくお前は、なにがしたかったんだ」
疲れていてつい漏れてしまった俺の問いに、落ち武者は最初に出していた淡古印っぽい渋い声で答えた。碇シンジの下手な物真似を披露したあとで、今さらどう取り繕っても遅いが。
「決まっているでござる。来るべきモーニングスター時代の到来に備え、守護霊としてお主に忠告するために現われたのでござるよ」
「百歩譲ってそういう意図で出てきたとして、最初モーニングスター男子とか、ありえない話をしてた意味がわからんのだが……」
「……そんな悲しいこと言うなよ!」
地味に気に入っているのか、似てない物真似をさらに繰り返して、落ち武者は消えた。
それに呼応するように、いつしか俺の意識も遠くなっていった。

朝が来て目覚まし時計が鳴り、俺はしぶしぶ寝床から起きあがる。
かつてないほど心身が疲弊しているのがわかった。
落ち武者との会話は夢だったのだろう。たぶん、疲れていたからあのようなおかしな夢を見るのだ。

だが夢オチではなかった。
部屋の中には一振りのモーニングスターが残されていたからだ。
長さ1メートルほどの棍棒状の武器。握り部分には滑りどめの革が巻かれていて、先端は球状に膨らんでおり、そこから鋭い金属製のトゲが何本も放射状に突き出している。絵に描いたようなモーニングスターが無造作に部屋の床に置かれていた。
よく見ると自重で床のフローリングに深く突き刺さっており、それが紛うことなき本物の武器であることを物語っていた。
「えー……」
俺は腹の底から脱力した声を漏らし、しばし呆然とした。
そうしてから、おそるおそるそれに手を伸ばし、持ち手とおぼしき部分を握り、ぐっと持ち上げてみた。
「まったく……なんなんだよ、これ……」
モーニングスターは想像していたよりも重くはなかった。
いや、たぶん3キロぐらいはあり、それなりに重いのだが、バランスがいいのかあまり気にならない。
ためしに下から上に振ってみる。先端が重いので、振りはじめに若干ぐらつく感じはあるが、何度か振るうちにコツが分かり、スピーディーに勢いよく振れるようになった。

そこで俺はふと我に返り、悠長にモーニングスターを振り回している場合ではないことに気づいた。今日も会社だ。終電の時間まで働き、場合によっては泊まり込み、まるで明けない夜のように果てしない闇に包まれた仕事がはじまるのだ。
俺は憂鬱さを晴らすように部屋の窓を開けた。
外からいきなり怒号が聞こえた。
男たちが発する野太い怒鳴り声と、短い悲鳴。少し遅れて長い悲鳴……おそらくは断末魔の声。
見れば、外で男たちが戦っていた。
窓から見える歩道の上で、スーツ姿の中年と、パーカーを着た若者が対峙している。傍らには何人かの人が、大量の血を流して倒れている。
中年と若者は、それぞれが示し合わせたようにモーニングスターを手にしていた。
少し離れたところには、主婦とおぼしき女性が犬の散歩をしていた。右手には犬のリード、左手にはモーニングスター。
その横をランドセルをしょった小学生の男女が駆け抜けていく。ランドセルからは、リコーダーではなくモーニングスターが飛び出ていた。
「マジかよ」
俺はつぶやいた。
そんな口にしてもなんにもならないことを、ついつぶやいた。
そのとき部屋の玄関のほうからものすごい打撃音が聞こえた。
何度も何度も、まるで手荒すぎるノックのように。
なにごとかと思って見てみると、そこには我が家のドアを突き破って飛び出している星状の鋭いトゲがあった。
俺はさっきから握ったままだった右手のモーニングスターを、知らぬうちにいっそう強く、力の限り握りしめる。
にぶくもやがかかっていた頭の中が晴れ、覚醒していく。
それは夜明けだった。
あるいは光であり、目覚めだった。
夜に閉ざされた世界の終わりを告げる、ひどくいびつに輝く明けの明星だった。

井上通信

2016/09/07

せっかく読んでもらっているのに、その、なんと言いますか、また例によって放置することでブログ上部に出現する広告を消すための更新なわけです。
元気ですって言いたいだけの更新です。
むしろP.S.元気です俊平ってことです。

そう言いながらその漫画、これまで読んだことないんですが。
想像するに、きっと……すごい元気なんだと思います。俊平が。
たぶんあだ名は「元気玉」で、口癖は「ハッスルマッスル!」とか、そういう危険人物です。

そんな元気すぎる俊平の話はともかく、とくに誰も気にしていないであろう俺の近況とかを語りだしたいと思います。
とは言ってもなにか画期的な出来事があろうはずもなく、コミケ終了後はひたすら仕事・アニメ・ゲームですよ。友情・努力・勝利みたいなノリです。

あとはともに暮らしはじめて丸二年になった猫に振り回されています。
いろいろわかったことがあります。
猫のいってることがわかるようになりました。
基本的に彼女がにゃーにゃーと鳴くときは、

「今すぐアタイと遊べこのやろう」
「もっと撫でろこのやろう」
「触るんじゃねえこのやろう」

のいずれかです。
恋愛シミュレーションよろしく三択から正解を選ぼうとするわけですが、間違うと引っ掻かれます。無視するとやはり引っ掻かれます。正解でも下手をすると引っ掻かれます。
ときには部屋の壁やふすまを引っ掻かれます。
これが本当にひどくて、最近とうとうふすまを貫通しました。
どうにかならんものかと思っていろんな猫サイトの記事を読み漁りましたが、さっぱり参考になりませんでした。
たとえば、

 ●壁や家具に対する猫の爪とぎをやめさせるには、お気に入りの爪とぎを与えよう!
  そうすればそれ以外の場所では行わなくなるゾ!

  →爪とぎは爪とぎで使うんですが、壁やふすまなどあらゆる場所を
   引っ掻きまくりつづけています。より良いとぎ心地を求める探求者なんだと思います。

 ●壁には保護シートを貼ろう!(1メートル四方で千円ぐらいする)
  爪が通らないので、あきらめて爪とぎをしなくなるゾ!

  →保護シートをやすやすと貫通してきました。
   シートと壁紙が混ざってボロボロになった状態が気に入ったのか、
   今では絶好の爪とぎ場所になりました。ふざけんな。


そういう感じで、困ったらとにかく猫の話で万全ですね。
あと、俊平も元気です。
むしろ死ぬほど元気だし、常に胸がパチパチするって言ってました。影山ヒロノブっぽい声で言ってました。
ときおりなにかのフラッシュバックなのか、目を見開いて脈絡なく「スパーキング!」と絶叫して落ちこんだりもしたけれど、俊平は元気です。

randam_butter夏コミ新刊

2016/07/23

夏コミに出す新刊をちょこちょこ書いてました。
ひとまずなんとか入稿できました。
小説本、あと初のシリーズものです。

syoei_nns_convert_20160723212258.png

詳細は近日中にrandam_butterサイトにて。
ちなみに表紙イラストは庭さん(紀伊カンナさん)です。
とりあえずそれだけはすごい!


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