怖がりの先輩の話

2016/11/13

 小学校に通いはじめる少し前。街に点在する桜の木々がその存在感を増しはじめる季節。いつも遊んでいる公園に見知らぬ男の子がいる。彼は錆びた鉄骨で組み上げられたジャングルジムの頂上に登り、高らかに叫んでいる。
「ぼくには怖いものなんか一つもないぞ!」
 本当かな、と思った私は男の子をジャングルジムから引きずり下ろし、その頭をグーで思いきり殴る。すぐに取っ組み合いの喧嘩になる。互いに叩き合い、服を掴んで突き飛ばし合い、髪を掴み合い、頬の肉を伸ばし合う。
 長い長い戦いの末、僅差で私が勝利する。
 馬乗りになった私に組み伏せられながら、彼は言う。
「今日、怖いものが一つできたよ」
 と、怯えた目をしながら私を指差す。その日以来、彼の怖がる顔を見るのが私の趣味になる。


 彼は私より一つ年上である。
「ぼくのことは先輩と呼んでくれ」
 同じ小学校に入ると、彼はそんなことを言う。とくにこだわりもなかったので、私は彼を先輩と呼ぶようになる。
 お昼休みや放課後、先輩に会うと私はきまってこう尋ねる。
 先輩には、今なにか怖いものがある?
 夏休み明け、子供たちの声が飛び交う校庭。五年生になり、顔を日焼けさせた先輩は少しだけ考えて、真剣な表情で答えを口にする。
「やっぱり、きみが一番怖い」
 私は満面の笑みを浮かべて、彼の背中に蹴りを入れる。そして必死の形相で逃げまわる彼に追いすがってすっ転がし、ズボンを脱がしてやる。


 先輩は、今、なにが一番怖いの?
 中学生になって私の背を追い越し、似合わない眼鏡をかけるようになった先輩に私は問う。
「自分が無意味な存在かもしれない、ということがぼくは怖い」
 そんな答えが返ってくる。いつの間にか私よりも怖いものができたらしい。
「この世界、いや宇宙に……ぼくは、いったいなんの意味を持って生まれてきたのだろう。最近はずっとそんなことばかりを考えている。その考える行為そのものを含めたすべてが実は無意味なんじゃないかと考えると、ぼくは夜も眠れないほどに怖くなるよ」
 その日は強い木枯らしが吹いていて、街の向こう側に落ちていく夕日が下校する生徒たちの影を長く伸ばしている。帰り道、肩を落として力ない笑みを浮かべる先輩に私は言ってあげる。
 うん、先輩は無意味で無価値な存在かもね。
「ええっ……?」
 眼鏡の奥の少しうるんだ瞳に向かって、私はなおもつづける。
 勉強も運動もそれなりだし、とりたてて面白いところがあるわけでもないし。いろいろクラスの面倒ごとを押し付けられて毎年なにかの委員長をやったりするあたりが存在価値と言えなくもない……かもしれないけど、宇宙的な視野で見ればほんのチリみたいなもんだと思う。
「そ、そうなのだろうか……ううう」
 頭を抱える先輩を横目に、私はひそかにほくそ笑む。さっき「とりたてて面白いところがない」などと言ったのは嘘だ。なにかを怖がる先輩は、私にとって最高に面白い存在である。


 先輩は高校生になると生徒会に入り、校内運営におけるさまざまの手伝いをやらされるうち、なかば祭り上げられるようなかたちで二年生の冬には生徒会長になってしまう。
 ちなみに私も同じ学校に入学し、なりゆきで副会長の座におさまっていたりする。
「……ぼくが今、一番怖れていることがなにかわかるかい?」
 数日後に迫った校内行事の雑務のため、放課後に二人で黙々と書類作成をやっていると、訊かれてもいないのに先輩はそんなことを言い出す。
 下校時間はとっくに過ぎている。もう他の生徒会メンバーは帰ってしまい、生徒会室には私と先輩の二人しかいない。
 いいからとっとと仕事をしてください、という私の言葉を無視して先輩は語りはじめる。
「ぼくは……女性のおっぱいを見ることもさわることもなく生涯を終えるのではないか……そのことが一番怖ろしい」
 あっけに取られつつも、私は質問する。少し前まで、自分の存在の意味がどうとか言ってませんでしたっけ?
「そんなことは、もうどうでもいいんだよ!」
 眼鏡の奥の目を大きく見開いて、彼は力強く叫ぶ。
「むしろ人生の意味や価値っていうのは、おっぱいをさわれるかどうかで決まる。それが人生のすべて……そう言っても過言ではないんだよ。人生すなわちおっぱいであり、世界これおっぱい。宇宙もまたおっぱいである。しかし宇宙に存在するありとあらゆるおっぱいは、二つに大別される。ぼくがさわることができるおっぱいと、ぼくがさわることができないおっぱい……言うまでもなくその二種類だ。服と下着に隠され、ぼくから観測することができない女性のおっぱいは、その二種類の可能性を常に併せ持つ。つまり二つの状態が量子的に重なり合っているんだ。……ここまではわかるね?」
 いいえわかりません、と私は冷たく即答する。少なくとも私の胸は量子的に重なり合ったりはしていない。
「ふう……やれやれ」
 肩をすくめながら首を振る先輩。むかっとしたので何年かぶりに先輩の顔面をグーで殴る。
「ぐあっ!」
 うめいて鼻をおさえる先輩に向かって、ゆっくりと私は聞く。自然に低い声になる。
 ねえ、もしかして先輩って、私のことを女だって思ってないんじゃないですか?
「えっ……?」
 先輩はおそるおそる、という感じでうなずく。
「う、うん……きみはなんというか、ぼくにとっては妹みたいなもんだよ。少々、凶暴な」
 私はさらにもう一発、先輩を殴る。もちろんグーで。


 そうして、私たちの間にいくつもの四季がめぐる。
 桜の花が舞う季節の、とある日の夜。
 私の目の前のテーブルの上には、指輪のケースが置かれている。
 その箱の中には、先輩が貯金と初任給をつぎ込んで買い求めたであろう指輪が納められている。
 その円環には、ささやかな輝きをまとう小さな宝石があしらわれている。指輪を挟んだ向こうには スーツ姿の先輩が座っており、ひどく神妙な面持ちで私の言葉を待っている。
 ふと気になって、私は訊いてみる。
 先輩が今、一番怖いことってなあに?
「えっ?……な、なぜ今、そんなことを言うんだい?」
 額に汗を浮かべ、真っ青な表情で彼は訊き返す。これまでに見た中でも最高の部類に入る素晴らしい「怖がり顔」をしている。一番好きな表情。私の大好きな顔だ。
「そんなの決まってるじゃないか。きみの返事を聞くのが……今、一番怖いよ」
 願わくば、先輩のその顔をずっと見ていたい。そう思いつつも、私は贈られた指輪を握りしめて、とある言葉を口にする。



「ようやく眠ったね」
 私の腕に抱かれ、静かに寝息をたてる娘をのぞき込みながら、先輩は言う。
「ぼくが抱っこしたら必ず泣き出すのに、きみだと一発で泣きやむんだものなあ……」
 苦笑しながら、そっと赤ん坊のほっぺたをつつく。
 この子はね、と私は彼に教えてあげる。
 この子はね、きっと先輩の困る顔が見たくてわざと泣くんですよ。
「そ、そうなのかい?」
 そうですよ。だって私の娘ですもの。
「うーん、それは困ったなあ」
 さほど困ったような顔をするでもなく、先輩は微笑みながら娘の顔を見つめている。
 そこで、私は問いかける。
 彼に対してこれまで幾度もしてきた、例の問いかけ。
「……今、一番怖いこと、かい?」
 先輩は首をかしげ、しばし考えるそぶりを見せる。やがてゆっくりと両の腕を伸ばし、私と私の抱く我が子をいっしょに包み込むようにしながら、おだやかな声音でささやく。
「この幸せが、いつか終わってしまうかもしれない。それが一番怖いよ」
 さして怖くもなさそうな先輩の弛緩した表情を眺めながら、私は静かに考える。
 もしも今、この小さな娘の細い首を突然へし折ったら、いったい彼はどんな顔をしてくれるのだろう、と。

モーニングスター男子

2016/10/18

ある夜のことだ。
ぼろ雑巾のように働き、泥のように眠っている俺の枕元に武士が座っていた。
その男は武士というか、どちらかと言うと落ち武者という感じだった。ざんばらの頭はちりぢりにほつれ、肩には折れた矢が突き立っていて、いっそう落ち武者感に拍車をかけていた。

仰天して声も出ない俺に対し、その落ち武者は大きく肩を落としつつも正座の姿勢で、フォントにすると淡古印っぽい低くしわがれた声音でおもむろに語りはじめた。
「最近、ちまたでは刀剣男子というものが流行っているではござらんか」
どれだけ話題に脈絡がないんだよ。お前は俺のクラスメイトかなにかかよ。
俺の心中を察するふうもなく落ち武者は言葉をつづけた。
「だから拙者は思うのでござる。そろそろモーニングスター男子の時代が来てもいいと」
「いやいやいや、そんな時代が来てもいいわけはないだろ」
ようやく声が出た。
珍妙な時代の到来を否定する俺の言葉に対し、さも心外といった表情を浮かべる落ち武者。少しイラッとして俺は質問した。詰問になっていたかもしれない。
「……いったいお前は突然なんなんだ。落ち武者っぽい風体のくせにどうしてモーニングスター時代の到来を望むんだ」
「前者の質問については、そう、拙者は守護霊……お主の生命エネルギー……いや生命エナジーが著しく低下したので心配になって枕元に立った次第」
なぜエネルギーをわざわざエナジーと言い直したのか。というか、それ以前にいろいろ言いたいことはあるが……。
おそらく微妙な表情をしているであろう俺にかまわず、落ち武者はとうとうと語った。
「そして後者の質問……拙者とモーニングスターとの関係。それは一言で言い表すことはでき申さぬ。それをあまさず語るには相当の時を要するでござる。それこそ夜明けの星が見える刻限にまで及ぶでござろう……モーニングスターだけに」
心が疲れているとき、この手の「うまいこと言ってやった」系の言葉は本当に頭にくる。
「と、そういうわけでですね、モーニングスター男子の話なんですけれどもね」
身も蓋もなく武士口調をかなぐり捨てながら、落ち武者は強引に話題を戻した。どうしてもモーニングスター男子とやらの話をしたいらしい。
「わかったわかった。で、お前はどういうキャラを考えているんだ。モーニングスター男子とやらの」
「えっ? えーと、あの……なんだろう……いつもトゲトゲしくてドSっぽい男子、とか」
「ありがちというか、それ以外に思いつかんからな。他には?」
「うーんと……こう、さわるとチクチクしてる男子……とか……」
俺はキレた。
「お前、言い出したわりにさっぱり具体性がねえじゃねえか!」
「仕方なかろう! モーニングスターはウィキペディアにもたいした情報がないのでござる! エクスカリバーみたいないわくつきのモーニングスターもなさげだし!」
落ち武者はキレ返してきた。くそっ、こいつかなり面倒くせえ。なにが守護霊だ。なにがウィキペディアだ。たぶん自称守護霊の地縛霊とか怨霊とかそういうよくない感じのあれだ。
「どだい無理なんだよ、モーニングスターが主役になるなんて。正宗とか村正とかそういう固有のキャラクター性が皆無だし」
「むう……オンリーワンになれないのならば……ナンバーワンになるしかないでござるな」
したり顔で落ち武者は言ったが、意味はわからない。
「いや、それも絶対無理だしさ……」
「しかし実際、刀は使うのに高度な技術が必要でござる。すぐに刃こぼれしたり折れたりと信頼性もいまいちでござる。しかしモーニンスターであれば、相手を思い切りぶっ叩くだけでいいのでござる。それでトゲがうまいこと甲冑とかを突き破って致命傷をたやすく与えられるのでござる。マジ刀とか超いらね」
「……ほんとお前、なんで武士の姿で出てきたんだよ」
言語の乱れが甚だしい。
「生前に拙者がもしモーニングスターを手にしていたなら、今もまだ鎌倉幕府がつづいていたでござろうて……」
「どこまでモーニングスターの力を信じてるんだよ。ていうかお前、そんな昔の時代の人間なのかよ。まあ、もうこいつの中ではそういう設定なんだとこっちで勝手に納得するけどさ……」
「……そんなこと言うなよ!」
なぜか落ち武者が苦しげな裏声で言った。まったく意味がわからない。
「別れ際に、”設定”なんて…そんな悲しいこと言うなよ…!」
また裏声だった。
「……」
「……」
かなりの間があってから、俺はそれが碇シンジ(CV:緒方恵美)の物真似なんだとようやく気づいた。
「……そんなこと言うなよ!」
「うるさいよ! それ、おそろしくわかりづらすぎるし、さっぱり似てないし唐突っていうかもう、なんなんだよお前……って、別れ際?」
「そうでござる。名残惜しけれども、訪れたる別離の時……」
まったく名残惜しくはなかった。
「けっきょくお前は、なにがしたかったんだ」
疲れていてつい漏れてしまった俺の問いに、落ち武者は最初に出していた淡古印っぽい渋い声で答えた。碇シンジの下手な物真似を披露したあとで、今さらどう取り繕っても遅いが。
「決まっているでござる。来るべきモーニングスター時代の到来に備え、守護霊としてお主に忠告するために現われたのでござるよ」
「百歩譲ってそういう意図で出てきたとして、最初モーニングスター男子とか、ありえない話をしてた意味がわからんのだが……」
「……そんな悲しいこと言うなよ!」
地味に気に入っているのか、似てない物真似をさらに繰り返して、落ち武者は消えた。
それに呼応するように、いつしか俺の意識も遠くなっていった。

朝が来て目覚まし時計が鳴り、俺はしぶしぶ寝床から起きあがる。
かつてないほど心身が疲弊しているのがわかった。
落ち武者との会話は夢だったのだろう。たぶん、疲れていたからあのようなおかしな夢を見るのだ。

だが夢オチではなかった。
部屋の中には一振りのモーニングスターが残されていたからだ。
長さ1メートルほどの棍棒状の武器。握り部分には滑りどめの革が巻かれていて、先端は球状に膨らんでおり、そこから鋭い金属製のトゲが何本も放射状に突き出している。絵に描いたようなモーニングスターが無造作に部屋の床に置かれていた。
よく見ると自重で床のフローリングに深く突き刺さっており、それが紛うことなき本物の武器であることを物語っていた。
「えー……」
俺は腹の底から脱力した声を漏らし、しばし呆然とした。
そうしてから、おそるおそるそれに手を伸ばし、持ち手とおぼしき部分を握り、ぐっと持ち上げてみた。
「まったく……なんなんだよ、これ……」
モーニングスターは想像していたよりも重くはなかった。
いや、たぶん3キロぐらいはあり、それなりに重いのだが、バランスがいいのかあまり気にならない。
ためしに下から上に振ってみる。先端が重いので、振りはじめに若干ぐらつく感じはあるが、何度か振るうちにコツが分かり、スピーディーに勢いよく振れるようになった。

そこで俺はふと我に返り、悠長にモーニングスターを振り回している場合ではないことに気づいた。今日も会社だ。終電の時間まで働き、場合によっては泊まり込み、まるで明けない夜のように果てしない闇に包まれた仕事がはじまるのだ。
俺は憂鬱さを晴らすように部屋の窓を開けた。
外からいきなり怒号が聞こえた。
男たちが発する野太い怒鳴り声と、短い悲鳴。少し遅れて長い悲鳴……おそらくは断末魔の声。
見れば、外で男たちが戦っていた。
窓から見える歩道の上で、スーツ姿の中年と、パーカーを着た若者が対峙している。傍らには何人かの人が、大量の血を流して倒れている。
中年と若者は、それぞれが示し合わせたようにモーニングスターを手にしていた。
少し離れたところには、主婦とおぼしき女性が犬の散歩をしていた。右手には犬のリード、左手にはモーニングスター。
その横をランドセルをしょった小学生の男女が駆け抜けていく。ランドセルからは、リコーダーではなくモーニングスターが飛び出ていた。
「マジかよ」
俺はつぶやいた。
そんな口にしてもなんにもならないことを、ついつぶやいた。
そのとき部屋の玄関のほうからものすごい打撃音が聞こえた。
何度も何度も、まるで手荒すぎるノックのように。
なにごとかと思って見てみると、そこには我が家のドアを突き破って飛び出している星状の鋭いトゲがあった。
俺はさっきから握ったままだった右手のモーニングスターを、知らぬうちにいっそう強く、力の限り握りしめる。
にぶくもやがかかっていた頭の中が晴れ、覚醒していく。
それは夜明けだった。
あるいは光であり、目覚めだった。
夜に閉ざされた世界の終わりを告げる、ひどくいびつに輝く明けの明星だった。

井上通信

2016/09/07

せっかく読んでもらっているのに、その、なんと言いますか、また例によって放置することでブログ上部に出現する広告を消すための更新なわけです。
元気ですって言いたいだけの更新です。
むしろP.S.元気です俊平ってことです。

そう言いながらその漫画、これまで読んだことないんですが。
想像するに、きっと……すごい元気なんだと思います。俊平が。
たぶんあだ名は「元気玉」で、口癖は「ハッスルマッスル!」とか、そういう危険人物です。

そんな元気すぎる俊平の話はともかく、とくに誰も気にしていないであろう俺の近況とかを語りだしたいと思います。
とは言ってもなにか画期的な出来事があろうはずもなく、コミケ終了後はひたすら仕事・アニメ・ゲームですよ。友情・努力・勝利みたいなノリです。

あとはともに暮らしはじめて丸二年になった猫に振り回されています。
いろいろわかったことがあります。
猫のいってることがわかるようになりました。
基本的に彼女がにゃーにゃーと鳴くときは、

「今すぐアタイと遊べこのやろう」
「もっと撫でろこのやろう」
「触るんじゃねえこのやろう」

のいずれかです。
恋愛シミュレーションよろしく三択から正解を選ぼうとするわけですが、間違うと引っ掻かれます。無視するとやはり引っ掻かれます。正解でも下手をすると引っ掻かれます。
ときには部屋の壁やふすまを引っ掻かれます。
これが本当にひどくて、最近とうとうふすまを貫通しました。
どうにかならんものかと思っていろんな猫サイトの記事を読み漁りましたが、さっぱり参考になりませんでした。
たとえば、

 ●壁や家具に対する猫の爪とぎをやめさせるには、お気に入りの爪とぎを与えよう!
  そうすればそれ以外の場所では行わなくなるゾ!

  →爪とぎは爪とぎで使うんですが、壁やふすまなどあらゆる場所を
   引っ掻きまくりつづけています。より良いとぎ心地を求める探求者なんだと思います。

 ●壁には保護シートを貼ろう!(1メートル四方で千円ぐらいする)
  爪が通らないので、あきらめて爪とぎをしなくなるゾ!

  →保護シートをやすやすと貫通してきました。
   シートと壁紙が混ざってボロボロになった状態が気に入ったのか、
   今では絶好の爪とぎ場所になりました。ふざけんな。


そういう感じで、困ったらとにかく猫の話で万全ですね。
あと、俊平も元気です。
むしろ死ぬほど元気だし、常に胸がパチパチするって言ってました。影山ヒロノブっぽい声で言ってました。
ときおりなにかのフラッシュバックなのか、目を見開いて脈絡なく「スパーキング!」と絶叫して落ちこんだりもしたけれど、俊平は元気です。

randam_butter夏コミ新刊

2016/07/23

夏コミに出す新刊をちょこちょこ書いてました。
ひとまずなんとか入稿できました。
小説本、あと初のシリーズものです。

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詳細は近日中にrandam_butterサイトにて。
ちなみに表紙イラストは庭さん(紀伊カンナさん)です。
とりあえずそれだけはすごい!

神よ、黒川を護り給え

2016/06/15

 初めて会ったころの黒川さんは、ひたすら火炎瓶を製造していた。
 当時は火炎瓶をつくる技能に長けた人を重宝がる奇特な人々がなぜか存在して、彼はそんなよくわからないニーズに真っ向から応えることで生計を立てていた。
 黒川さんは火炎瓶をつくるのが早かった。そして彼の火炎瓶はよく燃えた。何か特殊なものを混ぜているのか、青みがかった炎を発しながら、消化剤を散布しない限り一昼夜に渡って燃え続けた。
 俺は火炎瓶を運ぶアルバイトをしていた。仕事は楽ではなかったが、黒川さんが住む街外れの廃工場に行くのは俺にとって数少ない楽しみの一つだった。
「ちわっす。瓶、受け取りにきたんすけど」
「ああ、ご苦労さん。そこに置いてある」
 作業場である地下室へと続く階段を下りたすぐ脇に、ビールケースがどっさり積まれていた。もちろん、中には火炎瓶が満載だ。
「また、えらく大量にこさえましたね」
「ほかにやることもないからな」
「評判らしいですよ。黒川さんの瓶」
 黒川さんは「そうかい」とうなずいて眼鏡の位置を神経質な手つきで直した。
「これから新しい配合の試しをやるんだが、付き合うか」
「え、いいんすか」
「いいさ」
 夕暮れを過ぎた薄闇の中、俺は瓶の入ったケースを廃工場裏の空き地まで運ぶのを手伝った。そこで黒川さんが黙々と火炎瓶を放り投げて、木切れを燃やすのを眺めた。
 乾いた音を立てて割れる瓶。
 導火布から混合液に着火した瞬間に溢れ出る閃光。
 焼きついた視界の中で、あの、不思議な青い炎が静かに、しかし激しく燃え盛っていた。
「どうしてあんな色になるんですかね」
 絶えずうつろう炎を見つめながら、俺はたずねた。
「さてね」
 黒川さんは軽くおどけ、肩をすくめた。
「たぶん、理由なんかないんだろうね」
 なぜかはわからないが、軽い口調でそうつぶやいた黒川さんはどこか寂しげに見えた。

 やがて日が落ち、俺がぼちぼち残りの仕事を果たすために廃工場を立ち去ろうとする間際、黒川さんが不意に声をかけてきた。
「君にだけは言っておくよ。もしかしたら、もう、二度と会うことがないかもしれないから」
 突然すぎる別れの言葉だった。「私はソヴィエトに渡る」黒川さんは言った。
「ソヴィエトって……あそこは今、かなりやばいんじゃ」
「そうだね。だからお別れを言っておくよ」



 その次に会ったとき、黒川さんは荒川の土手で石を売っていた。
 長い長い時が過ぎていた。

「……石売るよ、石売るよ」
 
 川べりにくすんだ色のブルーシートを敷き、大小とりどりの石を並べている黒川さんは、ぶつぶつと呻くような口調で道行く人に石を売ろうとしていた。
 俺は自分の目が信じられなかったが、忘れようもない。たしかにそれは黒川さんだった。あまりに変わり果ててはいたが。
「黒川さん」
「……あ」
 俺が声をかけると、黒川さんは呆けたような声を漏らした。
 声をかけてはみたものの、続く言葉がなかった。黒川さんは焦点の合わない視線をぼんやりと俺に向けていた。
「行けたんですか、ソヴィエト」
 やっとのことで俺は言葉を継いだ。長い沈黙があった。
「……たよ」
「え」
「行けたよ」
 黒川さんは静かに言った。俺は、そうですか、と答えた。
「あの国にはすべてがあった」黒川さんは続けた。夢見るような口調で。
「身を切る清洌な空気があり、素朴な人々の温もりがあった。崇高な思想があり、惨憺たる闘争があり、無骨だが美しい武器があり……死があった」
「死」
 と、俺はその一語を繰り返した。
「死は……何の修飾のしようもないぐらいただの……単なる死だったよ」
 それをひどく平坦な声で言ったあと、黒川さんは空を見上げた。俺は黙って耳を傾けた。
「あの国にはすべてがあったんだ。そう、あそこには妖精すらいた……ふふ、逃げられてしまったけどね」
「残念でしたね」
「ああ、残念さ。でもね、もっと残念なことがあった。私は……うん、残念だ……残念だよ」
 それきり黒川さんは黙り込んでしまった。
 どうしたものかと思っていると、突然その少女の声が聞こえた。

「クロカワは、クロカワ自身のБог(ボオフ)をみつけられなかったの」

 気が付けば、黒川さんのすぐ後ろに少女が立っていた。白い肌。亜麻色の布切れのような柔らかい服をまとった、どこかふわふわとした印象の娘。うつむき、虚ろな眼をした黒川さんとは対照的に、彼女は俺をまっすぐに見つめていた。
「きみは」
 何者なのか。
 俺はそう問うたつもりだった。だが俺の声が届いていないのか、少女は長い髪をそよ風になびかせて、たたずんでいるだけだった。
 その超然としたふるまいがあまりにこの場に似つかわしくなく、もしかして白昼夢でも見ているのではないかと俺は思った。
 やがて少女は短く答えた。ささやきにも似た響き。
「ずっと、ずっと、あたしはクロカワのそばにいた」
 少女は、そっと黒川さんの背後から細い両腕をからめ、自ら育てた我が子を慈しむように抱きしめ、頬ずりした。黒川さんは身じろぎ一つせず、茫洋としたまなざしを川面に向けていた。
「でも、クロカワにはあたしがみえないみたい」
 少し困ったような表情を浮かべた。
 気が付けば黒川さんは「石、売るよ」とつぶやき続けている。そんなものを売らないでくれ、と俺は思った。

「石にだってボオフはやどっているの」
 呼ぶべき名前のないその少女は、黒川さんのすぐ横にしゃがみこみ、並べられた石の一つを細い指でそっとつついた。
 黒川さんと、名無しの少女。
 俺はこの光景に少し目眩をおぼえながらも、少女に訊いた。
「なあ、”ボオフ”ってなんだ」
 石をつついて遊んでいた少女は、俺を見上げて小さく微笑んだ。
 その瞳は青かった。
 いつか見た、夕闇に映える青色。俺は目を離せなくなる。
 可憐な花びらをつらねたような唇がゆっくりと動いた。
「かみさま」
 俺は息を呑んだ。

「クロカワに、かみさまは、いなかったの」




 それから俺は、今度こそ二度と黒川さんに会うことはなかった。



 さらに長い、時が流れた。

 それなりに俺は生き、相応に年老いた。
 重篤と呼べなくもない病を得ており、残された時間はそう長くはないと理解している。
 最近は視力の低下がひどく、体調によっては、不意に視界一面が真っ白になることもある。どこまでも広がる白い闇だ。

 そんな折、黒川さんから一通の絵葉書が届いた。
 どうやって俺の住む場所を知ったのか。そもそも彼がまだ生きていたこと自体が驚きだった。
 絵葉書には黒川さんが写っていた。
 満面笑顔の黒川さん。その横にあの蒼い瞳を持つ名無しの娘が可愛らしい笑みを浮かべて寄り添っている。さらに、似たような雰囲気を持つ美しい少女たちが何人も黒川さんを取り巻いている。

 俺はその葉書の写真が作り物ではないかと思った。まるで現実味がない。この世の光景だとは信じ難い――そう思い、俺は目を凝らして葉書を見ようとしたが、ぼやけ白濁した俺の視界はもう、何かの真贋を判ずることなどできはしなかった。
 だがそれでも、黒川さんの笑顔だけは本物だった。
 白いもやの中にかろうじて読める、絵葉書の隅に小さく書かれた「私は見つけた」という殴り書き。
 ああそうか、と俺は思った。
 黒川さんは見つけられたのか、と。

 それきり俺の世界はまばゆく拡散していき、やがて光と闇の区別を失った。

海外ドラマ(微妙にネタバレあり)

2016/05/31

ここんところはhuluとかNetflixとかに入って人気の海外ドラマを視聴しまくる生活を送っていました。
もちろん常夏のビーチで。かたわらにトロピカルジュース。右手にリモコン。左手に美女。右脚にも美女。左足にも美女。尻の下にも美女。
早い話が元老ガザ様でした。
ガザ様のようにゴキゲンな日々でした。
ええ(↑)、ええ(↓)、そうでした、そうでしたとも!(デュバリー夫人)

そんな感じでだらっと感想です。


■ブレイキング・バッド
さえない化学教師ウォルター・ホワイトがひょんなことから超高純度のドラッグを作ることになり、いろいろあって闇社会でのしあがっていくアメリカン(南の国境沿い)サクセス・ストーリーです。
前半はひたすらダメな若者ジェシーに萌える作品ですが、後半もやっぱりジェシーに萌えつづける。そんなドラマ。
あとやたらウォルターさんのシャワーシーンが多いので気をつけなさい。
5シーズンありますが、シーズンが進めば進むほどおもしろい。
これはほんと、素晴らしいドラマですよ。どんどん深みにはまっていくウォルターさんの生き様は褒められたもんじゃないですが、男なら、いや男だからこそ共感せざるをえないものが多々あります。
三十路を過ぎた中高年のおっさんはぜひ観てほしい。
そして人生で理不尽な目にあったらピザを円盤のように家の屋根の上に放り投げてほしい。

■ベターコール・ソウル
ブレイキング・バッドに出てきた悪徳弁護士ソウル・グッドマンを主人公にしたスピンオフなんですが、これも下手すると本編を食う勢いでおもしろい。
スピンオフというので、まあ外伝みたいな本編のオマケ的なもんだろうと軽い気持ちで観てみたら、これも超名作だったという奇跡みたいなドラマです。
本編に出てきた人物が意外なところで登場する楽しさに加えて、とにかくソウルさんの過去が壮絶すぎて目が離せません。
よかれと思ってやったこと、すべての努力が裏目に出る悲しみ。ちょっと上向いたと思ったら、とんでもない方向から打ちのめされる。
がんばれソウルさん。負けるなソウルさん。
安原義人氏の吹き替えのハマりぶりがすごくて、気が付くとジミーさん(ソウルさんの本名)に感情移入しまくっています。
あとHHM法律事務所における懲罰人事のあからさまっぷりは異常。会社内に個室を持ってる社員であろうと、少しでもしくじると翌日から地下室のタコ部屋で延々書類整理をやらされます。

■ゲーム・オブ・スローンズ
七王国の玉座(座り心地は超悪い)を巡る壮大過ぎるファンタジーです。
1話目から狂ったように大量の登場人物が出てくるので、とっつきにくさはものすごいですが、1シーズン終わるころには「王がさぞ興味を持たれるでしょうなあ…」「人は時として意外な才能を見せるもの…」などと宦官ヴァリスの吹き替えのモノマネを無意識にしてしまうほどに没入します。
斬られた腕や首がすっ飛ぶゴア表現もりもりの映像の迫力さもさることながら、とにかくストーリーがえげつない。この世界における祝い事ではたいてい人が死ぬので、楽しそうな場面や幸せそうな場面でこそ気を引き締めなければなりません。
まさに怒涛のシーンの連続だったシーズン5が、おそらく全世界の予想を遥かに超えた超展開を見せつつ終了し、現在スターチャンネルで最新シーズン6が放映しているのですが、うっかりネタバレを食わないようにひっそりと生きている今日このごろです。

以下は俺の好きなキャラクター3人。

「花の騎士ロラス・タイレル」
みんな大好きBL野郎。
ちょっとイイ男を発見して視線を合わせ1秒、次のシーンでは即ベッドでハッスルマッスルしているという、非常にスピード感にあふれた騎士です。日々の生活がとんだ馬上槍試合です。
でも剣の腕は立ちます。
しかし夜は別の剣を弄んでいるご様子…と評されたことでも有名。
うまいこと言った。

「王妃サーセイ」
みんな大嫌いな権力ビッチです。貴様ーなんでこの世に生まれてきやがったー。
この人、自分の思い通りの悪事をキメたときのドヤ顔がすごい。
この顔だけで写真集を出したら、人々の怒りで国が滅びるほどの破壊力です。
いつか酷い目に合えばいい…と念じていたら、シーズン5で想像を絶したしっぺ返しを食らっていてちょっとかわいそうになりましたが、たぶんシーズン6でも反省はしてなさそう。

「サム(サムウェル・ターリー)」
ひとことで言うとダイの大冒険のポップのような男です。
偶然とはいえ初めてホワイトウォーカー(超強い氷の魔人みたいな怪物)を屠った男。
シーズン5では童貞を捨て、物語全編通して最も成長著しい男と個人的に思ってますが、油断していると次のシーズンでさっくり死んだりするので油断できません。
ほんとこの世界は、死んじゃいけない人から真っ先に死んだりしてくので……。
あと何らかエロいイベントがあった人も例外なく死んでる気がするので……。(死なないにしても、ちんこを切られる)


あと俺の好きなゲーム・オブ・スローンズでの死に方ベストスリー。

1.斬首

2.月の扉から落下

3.ナイツウォッチの誓いの言葉を口にしながら巨人に立ち向かい壮絶に相打ち


欲望、裏切り、復讐とひたすら陰惨な物語ですが、とにかくおもしろいので未視聴の人は一刻も早く観るとよい。
そして宦官ヴァリスの絶妙な吹き替えを楽しむとよいでしょうなあ……。


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