スプリンターセル

2005/11/28

 最近、ゲーム屋でX-BOX360の試遊台をよく見かける。
 うわさの次世代機である。
 パッと見、防弾性能は落ちているようだが、画像とかポリゴンはとても綺麗になっているようだ。
 思えばちょっと前まで「ポリゴン」ていうのがピッタリの、カクカクした肉体を持ったキャラクターを操作していたのに、いまやもう実写さながらの3Dキャラを操れる時代になった。
 セガサターン時代、バーチャファイター2の女性キャラの胸とか、うっかり突き刺さりそうなほどに三角錐だったというのに。
 それを反面教師としたのか、女性キャラの乳揺れに全精力を注ぎ込んだ格闘ゲーム「デッドオアアライブ」などが出現し、そのあたりからゲームのポリゴン技術は飛躍的に高まったような気がする。
 要は、人類が持つ技術の著しい進化の過程には必ずエロスかバイオレンスが関与しているのである。

 話が壮大なスケールになってきたところで最近プレイして面白かったゲームのことを書く。
 X-BOXの「スプリンターセル パンドラトゥモロー」である。
 敵から隠れながら進むのが面白い。
 暗がりに身を潜めていると、すぐそばを敵兵が鼻歌交じりで通り過ぎていくスリルがたまらない。しかも、たまに口笛だったり謎の歌だったりする。芸が細かい。

 うっかり明るい場所に出てしまったり、不用意に物音を立ててしまったりすると即座に敵に見つかって蜂の巣にされるが、不思議に腹は立たない。視点操作や画面のズーム、道具使用などの操作性が抜群に良く、プレイ中に理不尽さを感じることが少ないからであろう。

 あと、主人公サム・フィッシャーの声優が玄田哲章である。
 早い話が、サイコーである。
 いい具合にシュワルツェネッガーみたいな声でしゃべる。あと、ときおりスッパマンみたいな感じでしゃべる。
 さらに大塚明夫とか千葉繁とかも出ている。千葉繁が真面目なキャラを演じているのを堪能するだけでもプレイする価値は十分あるだろうと個人的には思う。

 暗がりが好きな人や、人生のステルス度が高いと常日頃から思っているような御仁にはぜひお勧めしたい。難しいけど。

2005/11/17

 このブログには基本的に嘘かでたらめ、あるいはでっち上げしか書いていないが、それは俺が少なからず歳を重ねて、現実をわざわざ正確に書き記すことが残酷であり、身をすり減らす行為であることに気づいてきたことによる。

 世間におけるたいていの言葉は嘘であるように、今この場において俺が書いた文章が嘘であっても、まぁ誰も困らないし誰も気にしないだろう。

 先日、N埠頭の倉庫帰りの電車にて、えらい巨漢を見かけた。
 体重は130キロを下らないであろう、ボタンのとまらないスーツから大きく腹を突き出した、ひどく、それは肥満した男だった。
 電車のつり革につかまって寝たフリをしつつ、俺は何とはなしにその男を観察していた。

 気になったのが、指だ。
 その男の指は、体躯に合わせ、とてつもなく太かった。最初、肌色の手袋でもはめているのかと思ったほどだ。
 そして、指先に絆創膏が巻いてあった。
 五指すべてに、だ。
 よくよく見ると、もう片方の手も、同じように絆創膏まみれの指だった。

 いったいなぜ、この男の指はそんなことになっているのか。
 考えてみたが、未だに納得のいく答えが出ない。
 ドジッ娘が料理をしたときのようなものなのだろうか。
 すなわち、

「うん、この料理、とってもおいしいよ」
「え、ホント? 良かったぁ~!」
「何だよ大げさだなぁ……あれ、君、その指の絆創膏は?」
「あっ、これ? これはその……えへへ、ちょっと失敗しちゃったっていうか……あ、気にしないで。全然痛くないから!」

 結婚してくれ。
 それはともかく、両手全指絆創膏はハジけ過ぎであろう。
 どうでもいいことではあったが、電車を降りた後もずっと、なんとなくその疑問が頭の隅に引っかかっていた。

 家に帰った後、このことをジョニ夫に話してみた。
 ジョニ夫は俺の部屋の同居人というか先住民というか、まぁそのようなものだ。彼と俺の奇妙な出会いは、また別の機会に書くかもしれない。
 ともあれ、俺が電車で見た巨漢の指の話をすると、ジョニ夫は深いため息をついた。
 ジョニ夫の口から漏れるのは、たいていは皮肉かため息だ。

「そりゃあ、アレだよ。そいつ、指をおろしたんだ」
「おろした?」

 ジョニ夫はまたひとつ、短く吐息を漏らす。

「大根おろしの『おろし』だよ。おろし金にこう、指をあてがって、ゴリゴリゴリゴリって『おろした』のさ」

 などとバカなことをしたり顔でいうジョニ夫。その悪趣味な考えにはほとほと呆れる思いだったが、俺は律儀に付き合ってやる。

「そんなわけあるか。いったいどんな心境になったら自分の指にそんなことをするっていうんだよ」
「……おまえは無いのか?」

 顔にも声にも表情の感じられないジョニ夫がいった。思わず、俺はジョニ夫から顔をそむけた。

「どうしようもなく指をすりおろしたくなるときってのが、無いのか? おまえには? ほんとうに?」

 あるもんか、と俺は言い捨てて、部屋の明かりを消して寝床に着いた。闇の中で、ジョニ夫のため息がひとつ、聞こえたような気がした。

魔界塔士

2005/11/09

 帰り、近所のスーパーで惣菜やらを買ったときのことだ。

 店内に、ヘルメットをかぶったまま買い物をしている男性を見かけた。
 三十代半ばといったところか。灰色のスーツ姿の彼は、晩御飯とおぼしき品々をレジに持って行き、会計を済ませ、カゴからビニール袋に品物を詰め替え、スーパーを出た。
 やはりヘルメットはかぶったままだ。

 彼に少しだけ遅れるタイミングで私はスーパーを出た。私のすぐ前、1、2メートルのところをビニール袋を片手に下げ、男が歩いている。
 もちろんヘルメットはかぶったままだ。
 店のすぐ近くに原付でも停めているのかと思っていたが、それらしきものに乗る気配は微塵も無い。彼は当然のようにヘルメットをかぶり、夜道を歩いていく。

 彼の背後を歩きながら、私はだんだんと気になってきた。
 この男、なぜヘルメットをかぶっているのだろう、と。

 ファッション……だろうか。いやいやまさか、と胸中で一笑に付そうとしたが、その方面にとんと疎い自分のこと、実は知らないところでこのようなモードが流行している可能性は否定できない。よくよく見ると、あのヘルメット、あれはあれでひどく洒脱なものに思えないこともないような。
 それをサラリとかぶりこなすあたり、彼がとんでもないオシャレの達人に見えてくる。

 そのとき、偶然、彼の手にしたビニール袋の中身が目に入った。
 その十数センチ四方の箱型をした食品を見て、私は驚愕した。
―――ぺヤング。
 ぺヤングソース焼きそば。
 それも、大盛り―――。
 こいつ―――。

 こいつオシャレ違う。
 私は本能で悟らざるを得なかった。
 だとすればいったい、この男は何なのだ。いったい何の意味があって、この徒歩の往来にあっていたずらに頭部の防御を固める必要があるというのだ。

 待てよ。
 防御を固める必要が、ある?
 もしや彼には、防御を固めなければならない理由があるのではないのだろうか。
 頭部用の防具。そしてヘルメットとくれば、アライのメットであろう。おそらくはゾクの町で購入したものであろう。6000ケロぐらいで。間違いない。
 早い話が、彼は魔界塔士なのであろう。
 そう考えると、神経質なまでに防御を固めるのにも納得がいく。ぺヤングも、ヒットポイント回復アイテムとして役立つのだろう。

 あ!
 すばらしいことに気が付いた。
 彼と、すぐ後ろを歩く私。はたから見たら、まるでパーティーを組んでいるようではないか。
 旅の仲間というヤツだ。
 さしずめ私は……そう、エスパーであろう。ファイアとかケアルとかで地道に彼のバトルをサポートする、とても渋い役どころだ。
 そう考えていると、前を歩く彼が、傷だらけの戦士に見えてきた。いくら防御を高めても、その熾烈な戦いの日々は、彼の肉体を蝕んでいるのだろう。

 彼を助けてあげなければ。唐突にそんな思いに駆られた私は、彼の背中に向かって小さく手をかざし、

 「ケアル」

 とつぶやいてみた。世界で何番目かに有名な、癒しの魔法である。
 その声が聞こえたのか、ヘルメットをかぶった彼は、私の方を振り向いた。
 刹那、視線が合ったかと思うと、彼はスーパーから一丁目ほど離れた道端に停めてあったスクーターにまたがり、キーを入れてエンジンをかけ、小気味いい音を響かせながら道路を走っていった。
 道交法を正しく遵守した彼とスクーターの姿は見る見るうちに小さくなり、さすがに私の回復魔法も届くまいと思われた。

 一人残された私は、自分の胸に掌をあてて、

 「ケアルラ」

 ちょっと奮発して、上級回復呪文を唱えた。
 この世すべての傷負いし者に、天よ、どうか癒しの光を。


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