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「てるみな」を読んで

2013/04/23

 あのV林田卿(てるみなおじさん)が鉄道コラムを寄稿しているというkashmir先生のてるみなを読みました。
 粘土ゲーム「バルバロッサ」においてパンタグラフ(電車の屋根についてるアレ)を作成して皆の顰蹙をかったV林田卿が寄稿しているというので、表紙だけ見て「ははーん猫耳少女が無闇にマニアックな鉄道の列車に乗って旅情をかもし出す漫画だな?」などと安易な予想をして読んでいましたが、そんな浅はかさを吹っ飛ばすほどの衝撃を受けたので紹介したいです。

 第一話のタイトルは「特急 高尾山 行き」
 主人公の少女ミナに突然猫耳が生えてしまい、お払いのため天狗の住む山・高尾山に赴く……という流れから話は始まります。
 おっ、高尾山はちょうど少し前に行って登って来たなーなどと思って頁をめくっていると「……あれっ?」と首をひねること数回。なんかこれ、俺が知ってる高尾山じゃないような……。
 完全なフィクションかというとそうでもなく、どこまでが本当でどこまでが虚構なのか判別のつかないV林田氏の鉄道コラムもあいまって、朴訥とした雰囲気ながらも幽玄きわまりない世界が繰り広げられます。
 この漫画のすごいところは背景にしれっと死や腐敗を彷彿とさせるグロいものや、妖艶で退廃的なEROいものが描かれているところです。ミナはそれらの異形がひしめく空間をこともなげに歩き、ほんわかと旅をするのですが……そのアンバランスさ加減がまた、読み手の酩酊を誘います。あれ……気がつけば、なんかおかしな世界に迷い込んでしまってないか俺……的な。
 ちなみに本の帯には「今日もゆるりと乗り鉄中(ハートマーク)」などと書かれていますが、これは突っ込んでいい部分だと、最後まで読んでから思いました。いや、ゆるりと乗り鉄してないかというと、けっしてそうでもないわけですが……。

 ひたすら素直で可愛い猫耳少女が、やたらポップで諧謔味あふれる死と退廃に満ち、どこまでも悪夢めいた不思議な街を、ゆるっと鉄道で巡る……こう書くと支離滅裂ですが、混沌とした様々な要素がこれ以上なく自然に調和している世界は、読んでいるだけですごく楽しいです。
 それでいて俺のように特別に猫耳や鉄道が好きじゃなくても楽しめる、とても懐の深い漫画と言えましょう。
 kashmir先生が昔から同人誌やブログで描かれているダークでデス的なアレが好きな人も、そうでない人にも幅広くおすすめできる作品。
 ありがとうkashmir先生……ありがとうV林田(てるみなおじさん)氏……!

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獏ライブ!その2

2013/04/18

第6話「センターは誰だ?」


 穂乃果の部屋に、三人の女が集っていた。
「おう、これに歌詞を」
 東條希が、一冊の擦り切れた帳面を手にしながら言った。手垢にまみれ、汚臭が漂っていた。表紙全体が灰色をしている。タイトルを書き入れるためのスペースには、小さく”歌詞”とだけ、黒いボールペンで記されていた。
 スクールアイドル活動についての話を聞きに来た希は、興味深げに二人が語る言葉に耳を傾けている。
「歌詞はだいたい海未先輩が考えている」
 凛が短く言った。
「ほう。では新しいステップを考えるのは――」
「それはことりが考えている」
 間髪入れずに穂乃果が答えた。
 誇らしげに太い笑みを浮べているμ'sのリーダーに、希は問うた。
「では――穂乃果、あなたは何をしているん?」
「うむ」
 しばし黙考し、穂乃果は言った。
「私は飯を食らう」
「私はテレビを視聴する」
「私は他のアイドルたちを見て、”凄いな”と思う」
「そして私は、海未とことりと二人の応援をしている」
 そう答えた。
 満ち足りた月のごとく、欠けたるもののない答えであった。

「それだけなん――」
 希は魂魄を抜き取られたような面持ちでつぶやいた。



問 スクールアイドルのセンターを担うべきリーダーについて問う。
答 誰よりも熱い情熱を持ち、皆を牽引する者である。
問 重ねて問う。リーダーとは何か。
答 皆の精神的支柱になれるだけの懐の大きさをもった者である。
問 なお、重ねて問う。リーダーとは何か。
答 皆から尊敬される存在である。
問 リーダーとは、矢澤にこか。
答 ――――
問 なお、重ねて問う。リーダーとは、矢澤にこか。
答 ――――

 「音芸教典」巻ノニ 問答篇より



「けっきょく、誰がリーダーをやるのだ!?」
 業を煮やした真姫が声を荒げた。
「歌、ダンス、アイドルとしてのオーラ。どう比べても結論が出ぬ」
「皆、同じか――」
 答えの出ない問いであった。場の空気は澱み、誰もが出口のない迷宮に入り込んでしまったような困惑をおぼえていた。

「じゃあ、いいのではないか。リーダーなどなくても」

 そう、穂乃果が言った。
 力に満ちた言葉であった。
 全員の驚愕を尻目に、気負いのない表情で言葉を続けた。
「リーダーとは、あってなきがごときもの……すなわち虚無であろう。私たちの歌と踊りとは何の関係もあるまい」
「――」
 部室はつかの間、沈黙に支配された。
 やがて、かすれた声で真姫が反駁した。
「しかし……センターはどうするのか」
「ああ」
 我が意を得たりと言わんばかりに、穂乃果は大きくうなずいた。そして、
「全員がセンターをやればよい」
 と言った。
 己を指さし、
「私がセンターである」
 次に海未を指さし、
「お前もセンターであり、すなわち私である」
 ことりを指さし、
「お前もセンターであり、すなわち海未であり私である」
 同じように凛、真姫、花陽を指さして宣言した。
「お前たちも皆センターであり、同時に私自身でもある」
 矢澤にこが渋面を浮かべながら訊いた。
「このにこも、センターなのか?」
「そうだ――」
 穂乃果が……いや、今やμ's全員の総意である者が答えた。
「にこ先輩、あなたもセンターであり、同時に私である。全員が等しく歌い、踊り、廻り、隣の者の手を握る。それは尾を飲み込む蛇の連鎖であり、永劫に続く螺旋である。その意味で、私たちは皆、等価なのだ」

 ごう……

 吼えた。
 今や一つになった彼女たちは、ひとかたまりの巨大な呼気を放出した。
 どこからともなく、風の唸りにも似た響きが届いた。
 それはきっと、青春と呼ばれる音であった。



「でも……本当は誰がリーダーにふさわしいのだろうか?」
 練習をするために屋上へ向かう道すがら――
 そう誰かが問うた時、すでにその答えは皆の心にあった。
「そう、それは――やはり――」
 問いを発した瞬間に答えが生じ、問いがそのまま答えとなった。
 誰よりも早く階段の果てるところへ辿り着いた穂乃果が、叫んだ。
「じゃあ開始(はじ)めよう――」
 解き放たれた扉から、露天の柔らかな光が今や一つのものとなった皆の上に降り注いだ。すでに問いも答えもなく、ただ歌と踊りの熱気が生じる前の心地良い静寂だけがあった。


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