劇場版ラブライブ!をみてきたよ

2015/06/22

 新宿ピカデリー前にはいつものように何十台ものバイクやサンドバギーが路駐されていた。
 さらにどこの馬鹿どもが乗ってきたのか、乗合バスよろしく大型の装甲車まで鎮座している。車体の背面に据え付けられた銃座の上で、機関銃が雄叫びを上げるような角度で濁った空を示していた。
 
 まとわりついてくる重油の臭い。獣の革とおぼしき臭いと、むき出しの鉄が錆びた臭い。よくわからない隠し味のような臭い。それらが最悪の三重奏だか四重奏をかなで、俺の鼻孔を直撃した。
 車輌はどれも例外なく装甲板が何枚も無骨に重ね貼られ、ホイールやボンネットから槍のような鋭いスパイクが突き出ていた。まるで鉄のハリネズミか、あるいは病気の針葉樹のようないびつなシルエットを晒しているそれらを慎重に避けながら、ピカデリーの入り口にたどり着く。
 
 やがて俺はピカデリー内部に通じるスイングドアの前に立った。耳障りな蝶番の音を響かせ、その汚い木切れで出来た扉を押し開けた。すると外部の臭気とはまた趣の異なる悪臭が、バックドラフトよろしく俺の顔面に襲いかかってきた。それは獣の臭い。頭蓋からすっぽりと知性の失せた者たちが放つ、下劣で粗暴で野卑な臭いだった。
 ピカデリーのロビーでは革アーマー(とでも呼ぶしかない、肩パッド付きの半裸じみた革の服装)を装備した男たちがカードに興じていた。連中は野卑な笑いを漏らしながらも、ロビーに踏み入ってきた俺を油断なく粘着性のある視線で値踏みしている。

 俺は売店のカウンターに向かった。
 猛獣からの防護を目的とした鉄柵じみたカウンターテーブルの向こうで、無愛想な店員がグラスの汚れを拭っていた。グラスは垢なのか油なのか分からない黒斑にまみれていた。店員は同じぐらい汚い襤褸布を使って、それを神経質に何度も何度も擦っている。
「アイスミルクを」
 注文すると、背後でけたたましい笑い声が聞こえた。
「ひゃっはは……ミルクだってよォ」
 俺は舌打ちし、肩越しに声の発生源へ視線を走らせた。テーブルの男たちは鼻につく薄ら笑いを浮かべながら、手に持ったカードやナイフを弄ったり、安バーボンの瓶をあおっている。何人かは得体のしれない葉を巻いた煙草を咥え、そのうちのさらに何人かは眼の焦点が合っていなかった。
「すいませんねお客さん。うちゃそういうのやってないンですよ」
 店員がさして悪びれた様子もなく言った。
「ホットドッグのセットはどうです……うちのは正真正銘、犬の肉を使ったリアルのホットドッグだよ」
 俺が首を振ると、なにがおかしかったのか店員はヒッヒッとしゃくりあげるような笑い声を漏らした。
「ま、あんたの後ろの連中に頼めば、立派なホットドッグをサービスしてくれるかもしれませんがね……ミルク付きで」
「もういい。チョコクロのセットをくれ」
「……毎度」

 オンラインで予約したチケットを発券し、ロビーの片隅に座り込んで開場を待つ。
 喧騒の中でぬるいコーラをすすっていると、屋内のどこかに設置されたスピーカーからひび割れた声が聞こえた。
 8:50上映の「ラブライブ!The School Idol Movie」……その入場開始を告げる声だ。
 テーブルの男たちがぞろぞろと動き出す。
 俺も腰を持ち上げ、便所の前にできた小便溜まりを踏み越えてシアター1へ向かう。
 
 シアター1は背徳の温床だった。
 飲酒や喫煙はもちろんのこと、座席の陰でくぐもった嬌声を上げて女と交わっている者もいれば、誰かれかまわず怪しげな粉末の取引を持ちかける者もいた。
 俺は指定された座席の前に行き、何発もの銃痕が刻まれたシートに腰掛けた。
 ところどころに染みの浮いたスクリーンを見上げながら、スクールアイドルたちの軌跡に思いを馳せた。

 テレビアニメ「ラブライブ! School idol project」――
 母校存続の危機に立ち上がった、高坂穂乃果をはじめとする9人の少女たちの物語である。
 芸術の女神になぞらえ「μ’s」と名乗った彼女たちは、数々の苦難を絆の力で乗り越え、スクールアイドルの祭典「ラブライブ!」でとうとう優勝を果たす。

 印象的だったのは、物語の中で「三年生が卒業した後、μ’sを存続させるか否か」という問題が非常に大きなテーマとして扱われたことだ。彼女たちのくだした決断は「μ’sを終わりにする」というものだった。
 その思いを涙ながらに海の彼方へ叫ぶ場面は、深く視聴者の心に刻まれた。
 念願のラブライブ!優勝を果たし、そこでμ’sの活動は終わりを迎えた。
 だが、テレビアニメ版で終わったはずのμ’sの物語……その続編として、今回の劇場版が公開されたのである。
 終わりの向こうには、なにがあるのだろう?
 俺はその答えを知るために、この日、新宿ピカデリーにやってきたのだ。

 開幕のブザーが鳴り、照明が落ちる。
 矢澤にこ、西木野真姫、絢瀬絵里の三人の掛け合いによる「劇場内での注意」が終わり、本編が開始しても場内の喧騒は止むことはなかった。
 だが、μ’sによるライブのシーンがはじまった途端、

「Oh……my GOD(なんてこった)」
「It's……Angel……Angel voice……(こいつは…天使の歌声だ)」

 そんな小さなつぶやきを最後に、シアター1の内部に静寂の波が満ちていった。
 いや、厳密には完全なる静けさではない。
 耳を澄ませば、それは聴こえてきた。
 乱れそうになる息を詰め、忘れかけていた涙を流しながら、それでも慟哭を必死にこらえる、男たちの静かなメロディー。
 獣たちが一時、人としての理性を取り戻し、奪い、殺し、憎しみ、騙すことのない空間を共有する。

 そして、物語の終盤。
 μ’s最後のライブ、最後の曲がはじまる。
 そこで、約束された終焉の果てを、俺は――俺たちは見た。

 終わりの向こうには、世界が広がっていた。
 男たちが忘れていた、それはかつての世界の姿だった。

「穂乃果……」
 俺はつぶやく。
 はじまりは、ほのかなものだった。
 最初はささやかで、ぼんやりとしたそれは、やがて大きく育ち、実っていった……。

「Little bird……(ことり)」
 ある男は、いつかの朝に聞いた小鳥のさえずりを思い出していた。
 今は耳朶が醜く裂かれて潰れ、黒い穴となったそこに響いた、たしかな音。
 それは巣立ちの音。力強い羽ばたきの前兆だった。
 誰もが耳にしていたはずの、あまねく可能性の音だった。

「Sea……(海未)」
 ある男は、夜明けの海を思い出していた。
 海で生まれ、海で育ち、海にすべてを奪われたのち、海で悪逆非道の限りを尽くしてきた。
 鈎状の義手となった片手には、もはや掴めるものは何も無い。
 男はそのことに初めて気づき、涙した。

「Star……(凛)」
 ある男は、空にまたたく星を思い出していた。
 いつものように酒場でカードで負け、有り金を巻き上げられ、殴られ、路上に放り出され、顔面に唾を吐きかけられた。
 ああ、けれども、なぜだかそんなときは……決まって星が綺麗だった。

「Hope……(希)」
 ある男は、ただわけも分からず喉を震わせていた。
 死んでやろうと思っていた。ポン引きを殴って小銭を手に入れ、ありったけのクスリを買い、そのすべてを一気にキめて極彩色の地獄に落ちてやろうと思っていたのだ。
 それが望みだった。望みだったはずなのに……今はその行為がつまらないものに思えた。

「Smile……(にこ)」
 ある男は、笑い方を必死に思い出していた。
 彼が笑うときは、愛用のショットガンを向けた相手の顔が恐怖に引きつるときだった。笑いとは常にそのようなものだった。
 まるでシーソーのように、自分の笑いが相手の恐怖に変換される。相手が恐怖した分だけ自分は笑顔になれた。
 だが生まれて初めて彼は、何の意図も効果もない、ただの笑いを浮かべようとしていた。

「Princess……(真姫)」
 ある男は、かつて一度だけ心から愛した女を思い出していた。
 最悪な男にふさわしく、女もまた最悪だったが、それでもあれは愛だったのだと唐突に気づいた。
 いつだって大事なことは遅れて気づくし、たいていは取り返しがつかない。
 それは重々承知の上だったが、それでも彼は胸を裂かれるような痛みを感じ、しばし肩パッドを震わせた。

「Картина……(絵里)」
 ある男は、薄れかけた意識の中で、幼い頃に見た絵画を思い出していた。
 冬に閉ざされた遠い祖国の生家で、暖かな暖炉のそばに飾られた家族の絵。
 四角い額縁の中でたたずむ、父と母と妹と自分。
 腹に開いた穴からは、とめどなく赤いものが流れ続けている。やがて彼の身体は急速に熱を失い、冷たくなっていった。



 上映が終わり、俺は自らの世界へと帰ってきた。
 銀幕の向こうに見えた世界は消え失せ、すえた臭いに包まれたおなじみの世界がやってくる。
 終わりの向こうには新たな世界があった。
 それでは、さらにその世界の終りにはなにがあるのだろう。
 また違う世界が現れるのか?
 それとも、そこで本当の終わりが訪れるのか?
 あるいはどこにも終わりなどないのか?
 
 しばらく俺はシートに埋もれたまま時を過ごし、やがて人の気配が失せたシアター1を出るために立ち上がった。
 シアターの出口の横、薄汚れたシートにもたれ、一人の男が死んでいるのが視界に入った。
 異国の風貌を持つその男は、小口径弾で撃たれたとおぼしき腹部からおびただしい血を流し、真っ赤な海に沈んでいた。
 死にかけた者が逃げ込んでくるなど、ピカデリーでは珍しくもないことだ。
 死にかけていた者が死んで死体になった。ごくごく日常的な光景だった。
 だが……その男は、どこか安らかな表情を浮かべていた。それはとても珍しいことだった。広い砂漠を彷徨した末に見つけた泉のように、とてもとても稀有なことだ。
 彼は最期になにを見たのだろう……と思い、それはもちろん劇場版ラブライブ!しかないことに遅れて気がついた。
 血にまみれ襤褸布のようになった彼の服の上に、一枚の小さな紙片が置かれていた。
 入場者特典に封入されているスクフェス用のシリアルコードが記された紙。
 目を凝らすと、

「SR 小泉花陽」

 と書かれているのが見て取れた。
 それはすでにコードを入力して用済みになったために捨てられたのかもしれない。あるいはスクフェスのプレイヤーではない者が不要として捨てただけかもしれない。
 まっとうに考えればそれはゴミ以外の何物でもない。
 そう、ゴミクズだ。
 この世界を構成する、あまりにありふれた普遍的なものだ。
 この紙もそうだし、死んでいる男もそうだし、さらに言えばここにいる俺自身や他の男たちがそうだった。
 だが俺は、それが男にたむけられた花のように思えた。
 死出の旅路を彩る、小さな白い花。小泉花陽……。
 ここにいた、ろくでもない野獣たちの誰かが、死者に花を供えた?
 それはあまりに馬鹿げた考えだったが、今しがたの映画の体験を思えば、頭のどこかで認め、頷くこともできた。

 劇中で「誰か助けて」と小泉花陽は言った。
 俺たちは「ちょっと待ってて」と心の裡でつぶやいた。
 けれど本当は、救いを求め、待っているのは、彼女ではなく俺たちなのかもしれない。死者を悼む行為が、常に生者のためにほかならないように。
 そんなやくたいもない考えを軽く頭を振って追い出し、男の亡骸に背を向ける。
 血溜まりを踏み越え、赤黒い足跡を点々と残し、そうして俺はシアターを出て猥雑な外の世界へと戻っていった。

もろもろ

2015/06/08

 ぶっちゃけて言ってしまえばあまり特筆することもなく日々を生きているのですが、それでもあえて記さなければならないときがあるのです。
 そうして無理にでも更新しないとブログに広告が表示されてしまい、とても殺伐とした感じになってしまうから……。

●ゲーム
 あいかわらずブラッドボーンやっています。
 もうかれこれ一ヶ月以上もやり続けているのにまだクリアできませぬ。
 難所を切り抜けた直後に敵対者に侵入され、みっともなく逃げまどった後に狩られたときの虚無感は筆舌に尽くしがたいものがありますね。いや、オフラインプレイでストーリー進めなさいよって話かもしれませんが、悔しいじゃないですか……。
 発狂させてくるキモい目玉の化物の掴み攻撃が回避できねえ。
 往年のザンギエフかハガー市長ばりに遠距離から吸い込んできやがる。
 古都ヤーナム……この街には暴力と死しかない。

 もうすぐバットマン・アーカムナイトが出るので、それまでにはクリアして、泣き喚いたあとのエシディシばりにスッキリしておきたいです。
 快適なバットライフを送るために。
 今度のバットマンは、バットモービルで街を疾駆でき、あまつさえ車に乗った状態から直接飛び出すことが可能とのことで、もう思うさまゴッサム・シティを走ったり飛んだり悪人を殴ったりできる。楽しみすぎて夢に見そうです。


●アニメ
 溜めていたアイドルマスター・シンデレラガールズをようやく視聴。
 俺が推している松本紗理奈がほとんどモブ扱いであることに若干憤りをおぼえながらも楽しく観ることができました。
 それにつけてもちゃんみおの本番の弱さは異常。
 どれだけ弱いんだよ。
 どれだけ弱いんだよ本番に。本番行為に。

 新田美波は熱を出してもEROい。今年の発熱がんばりファック業界に旋風を巻き起こすと見ている。

 アナスタシアのカタコトは至高であり、カタコト娘三傑に入る。残りはパイ(CV林原めぐみ)とシャンプー(CV佐久間レイ)あたり。

 前川みくはハングリー精神にあふれていて好感が持てる。ちゃんみおは見習うべき。

 かなこはそれほど太ましくない。むしろ細い。

 だがきらりは巨(デカ)い。

……そんなことを考えているうちに観終わっていました。早く第二シーズンはじまってください。お願いします。


 それと甘城ブリリアントパークも観ました。
 笑いあり涙あり歌あり踊りありおっぱいありと、まっこと素晴らしいアニメでした。
 思わず土佐弁が混ざるほどによきアニメでした。
 切実に二期を希望します。

 余談ですが主題歌シングルのコマーシャルでボーカルのAKINOさんが人間離れしたキレのある動きで踊っていたのが印象的でした。
 うかつに触れたら皮膚が切れて血が出るんじゃないかというレベルですよ。


●猫
 去年の夏に迎え入れた我が家のお猫様ですが、4月で推定一歳を迎え超元気です。
 抱っこと爪切りをなによりも嫌い、壁という壁、ふすまというふすまを破壊し尽くし、狭い室内で理由なき暴走を繰り返しています。
 キャットクローの攻撃力が半端ではなく、腕や腹が血まみれになることもしばしばなのですが、世の中の猫飼いは皆、このようなドメスティックバイオレンスに耐えているんですかね……。


RECENT ENTRY