理不尽とか不条理とか

2005/05/19

 バイト帰りに、駅の改札付近で殴られた。
 女の子に。棍棒で。

 終電間近の混み合った電車を降りると、駅の構内がちょっとしたパニック状態になっていて、よくわからないが誰かが暴れているようだった。

 喧嘩か何かだろうか。
 そう思いつつ、私は喧噪をかき分けて改札に向かう。
 気がつくと、混み合っていたはずのまわりには誰もおらず、ただ、私の前方にひとり、女の子が立っていた。
 白いワンピース。点々と血が散っていた。
 手に棍棒とでも言えばいいのか、棒状の武器らしきものをぶらさげており、これにもやはり血。わりとハードに使用済みらしかった。
 少女は荒い息をつきながら、私を見た。
 ひどく、せっぱ詰まったというか、追いつめられたような色がその瞳に浮かんでいた。どこか切実なものすら感じた。
 そして、その手の棒を上段に構えた。
 殴る気か。私を。
 殴られるのか。私が。

 視界の外で、駅員らしき人たちが駆け寄ってくるのがちらりと見えた。
 逃げろ、とかそんな悲鳴混じりの声も聞こえた。
 直後、頭に衝撃。

 気が付くと、駅の片隅に寝かせられていた。

「あ、気が付いた」

 近くの駅員が私の顔を覗き込んだ。

「アンタ殴られたんだよ。ボッコで頭、思いっきり。だいじょうぶ?」

 どうりで頭が痛かった。触ると額にコブができていた。
 私は訊いた。

「あの娘はどうしたんですか」
「ああ、アンタを殴った後に駅の外に逃げたよ。たぶんすぐ捕まるんじゃないかな。警察も来てるから」

 その後、何やら事情を聴取するだの救急車を呼んだから精密検査を受けろだのと、面倒なことになってきたので私は強引に逃げた。
 家路につく。
 歩くと、少し足がふらふらした。

 表通りを曲がると、白いワンピースを着た女の子が立っていた。
 私を殴った、あの娘だった。
 やはり手に例の棍棒を持っていた。

「こんばんわ」
「あ……こんばんわ」

 礼儀正しく挨拶をされたので、思わず私もそれにならって挨拶を返した。
 どうでも良いが、また殴られるのだろうか。
 それも嫌だったので、私は話し合いによる解決を試みることにした。

「あの、訊いて良いかな」
「はい」
「どうして暴れてたのかな。駅で」
「闘わなきゃいけないって思って」
「闘うって、何と?」
「さぁ……」

 娘は首を傾げた。無邪気な仕草だった。
 私を殴った際の、どこか追いつめられた様子は影をひそめ、やたら清々しい表情をしていた。

「とにかく闘わなきゃ、倒さなきゃって。そんな気がして」
「だから何を。誰を」
「んー、世の理不尽とか不条理とか。たぶん」

 そう言って白いワンピースの彼女は去っていった。その場には血の付いた棍棒が残された。
 そうか私が理不尽。この私こそが不条理だったのか。
 それは新鮮な発見だった。

 ただ、そこでそうしていても仕方がないので私も立ち去ることにした。
 ひどく疲れ、ひたすら眠かった。
 家に帰り、泥のように眠った。
 理不尽や不条理としての私は今日、あの娘に倒され、そしてまた明日、眠い目をこすりながらも起床して、顔を洗い、歯を磨き、朝飯を食い、バイトに出かけ、疲れ果てて帰ってくるのだろう。
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