クリスマスデイ

2007/12/27

 明け方までリトルバスターズ!をプレイし続け、目覚めたら昼を過ぎていた。
 いつもながらkeyのゲームに出てくるキャラクターはおもしろおかしいなあ。きらきらしてるなあ……などと思いつつ、彼らの学園コメディぶりに一喜一憂しているうちに寝てしまっていた。

 閉め切った暗い部屋の中で、つけっぱなしのノートPCのモニタが何か尊いもののようにまばゆく光っていたので寝ぼけたまま覗き込むと、そこには苦笑した表情のヒロインの立ち絵と「あはは~、そうかもしれないですねえ~」と表示された会話ウィンドウが表示されていた。

 俺の携帯電話は東芝製なので、マスコットキャラ「くーまん」が常時、俺をあの手この手で楽しませてくれる。

「さいきん、誰からもメールが来ないDEFFねえ……」

 心癒され、俺は黙って携帯を閉じ電源をOFFにする。

 街はきらびやかな電飾、人々の笑いと優しさに満ちていて、駅前の何とか堂という菓子屋では、寒そうに足を露出したサンタのお姉ちゃんがケーキを売っていた。

「メリークリスマス。お兄さん」
「やあ。今宵はいい夜だね。その5号のケーキをひとつ」
「お買い上げありがとうございます。でもお兄さん、お一人で食べるには少し大きすぎますよ」
「大丈夫。今夜は特別だから。あと、甘いものは別腹なんだ」
「そうですか。はい、メリークリスマス」
「ありがとう。メリークリスマス」

 店の隅ではいつものチンピラ数人がカード賭博に興じ、カウンターでは派手な柄のシャツの男と嬌声を上げるアル中の女がいて、それなりに楽しくやっていた。
 あんまりに楽しそうなんで、一瞬、俺も一緒に楽しくやれるかな、と思ったりもしたけど、カウンターの隅の、テレビが見える席に座ってマスターにケーキを切ってもらった。

「え、こんだけ喰うの? 一人で? やめときなって」

 俺はウオッカのシャンパン割りを頼んだ後、黙って店の中を見回した。
 カウンターの二つ離れた席で、柄シャツの男が声高に景気の良い話をしていた。女がしきりに「社長、社長」と言っているので、おそらくは社長なんだろう。六本木、ブランドの話、車、株価、そして外国の事業について。
 チンピラは錦糸町のヘルスの話で盛り上がっている。

 俺は静かに、ひたすらケーキをむさぼり喰った。
 テレビには、雪の降る、遠い異国の地の夜が映し出されていた。

「マスター、これ、どこの国?」
「えっ、……うーん、ロシアとかじゃないの。寒そうだね」
「あれ寺院かな。古いけど、暖かい感じがする――」

「なぁオイ、マスター、チャンネル変えてくれよ! 10チャン」

 不意に、女との話題が尽き気味だったらしい社長がマスターに言った。俺と社長氏の目が合った。
 二、三秒の後、彼は顔を歪めて舌打ちした。

「……なに見てんだ、このデブ」
「ち、ちょっと社長!」

 慌てたマスターが、俺と社長の間を遮るように言う。

「いいんだ、マスター。……すみませんね。なんか俺、ウザいでしょう。ケーキ喰ったら帰るよ」
「気持ち悪ィんだよ、さっきから。いい歳こいて、一人でケーキなんか喰ってンじゃねえよ!」
「すみません。社長さん。それとも王様って呼べばいいですか? 会社とか事業とか、金とか女とかって、そういうの全然わからないけど、少し静かにしろよ。俺、今日、ただ静かにケーキを喰いたいんだ」



 フラつく足取りで店の階段を降りて、何メートルか何十メートルか歩いて、道端のゴミ捨て場に向かって嘔吐した。
 溶けかけた、デコレートケーキ。その残骸。
 さらに胃液味のシャンパン。マーブルチップみたいな血も混じっていた。
 脳裏に、鈴の音が聞こえた。どこかで、誰かがベルを鳴らしていた。
 何のために?
 たぶん、他でもない、この俺のために。
 本当かよ?

 その後、何も出なくなるまで何度も何度も吐き続けて、ひどくむせながら、まるで百トンぐらいに体重が増えたような自分の身体を引きずるようにして、家路についた。




……おおむねこんな感じで、クリスマスイブの日は浮かれて過ごしました。
 久々に食べるケーキ超うめー。マジうめー。
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