DTB

去年MGS4のノベライズが出たとき、著者の伊藤Pこと伊藤計劃さんにサインをせがんだおりに「DTB」という文字を記してもらいました。
なんの略かというと「童貞万歳」です。マジな話。
伊藤さんと初めてお会いしたのは、たしかコミケ会場だったかと思います。
俺たちが801同人誌を売っているところへ、人ごみの中わざわざ顔を出してくだすったのでした。
そのころ俺は「虐殺器官」を読んで感銘を受けるあまりこんな愚かしい感想を書いてしまっており、まさか著者ご本人に会うことなど想像もしてなかったものだから、ひどく混乱してとりあえず速攻で謝りました。
すいません。童貞特殊部隊小説なんてアホなこと書いてごめんなさい。
すると伊藤さんは笑って握りこぶしを振りかざし、
「いやいや、これからも童貞全開でいきますよ!」
と力強く言い放たれたのでした。
その後、ヒライも書いてるようにボードゲームなどいっしょにちょくちょく遊んだり、どさくさにまぎれてウチの同人誌に寄稿などしてもらううちに「あ、この人、けっこうアホじゃな」と好ましく思うようになりました。
いつだったか飲み会の席で伊藤さんはおっしゃってました。
「昔、好きな人にベクシンスキの画集をプレゼントしてフラれました」
そりゃそうだよ!と全員からツッコまれていたことを思い出します。
そのとき俺はベクシンスキなる画家を知らなくて、家に帰ってから調べて、思わず「そりゃそうだよ!」と時間差で叫んだものです。
そんな魅力を……あふれんばかりの童貞マインド(あるいはtigerbutter提唱の『ドーティズム』)を伊藤さんからは深く強く感じていました。
人によってはそれを「繊細さ」とか「青臭さ」などと呼ぶのでしょうが、俺は俺なりの賛美と親愛と共感をこめて、あえていいたい。
童貞くせえと。
MGS4のノベライズが出たとき、俺が真っ先にすばらしいと感じたのが語り部であるオタコンの童貞くささです。
もはや童貞くさいなどというものではなく、まさに絵に描いたような童貞であった。
そのダイナミックなドーティズムあふれる挙動と言動。
それは完璧すぎる珠玉の童貞でした。
ただしノベライズという性質上、それは伊藤さんの童貞マインドがなせるわざなのか、もともとの脚本がそうなのかが判別しづらい。
そこで俺は伊藤さんの童貞仕事ぶりを確認すべく、プレイステーション3ごとMGS4を購入し最後までプレイしました。
結果、ゲームのオタコンもかなりの童貞臭を匂わせておりました。
けれどもゲームと小説というメディアの違いを超え、かつ、物語全体の大幅な再構築を行いながらも、ここまで見事にオタコンの童貞臭をノベライズ上で再現できたのは、ひとえに伊藤さんの持ちうるドーティズムのなせるわざだといわざるをえません。
そして「ハーモニー」
ご本人が百合だ百合だとおっしゃるものだから、おびえながら拝読したのですが、なんのことはなく登場人物はみな、ちんこのない童貞でした。
ちんこを装着すれば即座に一線で通用する童貞たちの物語です。
それはさすがに嘘ですが、とにかく俺にとって伊藤さんの小説は「童貞が世界を滅ぼす」というテーマを高らかに謳いあげており、逆にいえば「童貞でも世界を滅ぼせる」という童貞賛歌なのでした。
同じ小島監督ファンとして、伊藤さんとはもっとお話したかったなあ。
ここでひとつ、今の今まで誰にも言ったことがないドーティズムあふれる告白をすると、サイト名の「randam」というのは小島監督の名作ADV「スナッチャー」に登場するバウンティハンターの名前から取ったのです。
わー。
恥ずかしながら、この歳になるまで俺の知り合いは誰も死んだりしないと思ってました。
ネット上にこういうことを書くのが適当ではないかもしれんし、読んで不快に思った方には申し訳ないですが、思えばインターネットがなかったらたぶん伊藤さんとはお会いできなかったと思うし、だから少しでもネット上に伊藤さんのことを記しておくのが、この欺瞞に満ちた世界で闘うサイバーパンカーとして正しいことなのだろうと勝手に思って勝手に書きます。
ありがとうございました。
童貞万歳。
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