興味

2005/07/14

 最近、何か書く気力が驚くほどにうせていることに驚く。
 俺はもうダメだ。
 ダメかもしれない。
 何にも興味が持てない。

 つらく苦しいときには決まって俺は、あの、懐かしい故郷の世界へと精神を遊離させる。
 我が麗しのノースハーバー。
 どこもかしこも塩の味がした。酒場の安酒、路地裏の汚れた地面、商売女の肌。
 そして、たぶん街中を歩いてる野良犬ですら。
 しょっぱい街で生まれ育って、ほかのしょっぱい奴らはだいたい友達。甘くでも辛くでもなく、俺たちは、ただひたすらに、塩の味がした。

 今も思い出す。
 「白魔道士」サムの最期の言葉を。
 サム爺さんは寂れたバーのマスターで、気に入らない客には水を、当時ガキだった俺には頑としてミルクしか出さないような男だった。
 しかし女性客に対しては「不思議な不思議なホワイトミルク」などと称して怪しげな特別メニューを勧め、それに乗じ何かとてつもなく卑猥な行為に及ぼうとしたため、そんなときは決まって、

「オイオイまたサム爺さんの白魔法が始まったぜ!」

 そんな誰かの野次を皮切りに、酒場は下卑た笑いに包まれたものだった。

 魔法使いだったサム爺さんにも寿命があった。
 臨終の間際、老いた白魔道士は言った。

「実は、たまに黒魔法も出ちゃってた」

 血尿?
 そう思ったとき、すでにもう、爺さんはいない。この世に残った最後の魔法使いは死んだ。
 それと同時に、何か、あの街で大切だったもの、とても大事な何かも、死んだ。
 正確には死に始めたのだ。
 ゆっくりと時をかけて俺は、そう、魔法のとけた馬車がカボチャに戻るように、緩慢に車輪を失い、御者を失い、輝きを失い、車窓が虚ろな眼窩となっていくのだ。たぶん。
 そう思うと少し気が重いが、ちょっと気が楽だ。
関連記事


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://randamhexa.blog5.fc2.com/tb.php/33-e3d3e315
    この記事へのトラックバック


    RECENT ENTRY