水樹奈々様ライブレポ的なもの

2011/07/27

 去る7/24(日)、今や天下人との呼び声も高い声優であり歌手でもある水樹奈々様のライブに行ってきた。

 場所はさいたまスーパーアリーナ。
 さいたま新都心駅の改札を抜けると、いやでもその威容を目にすることができる。

「はー、でっかいですなー」

 一緒に来たUが、おのぼりチックな感嘆を漏らす。

「まさしく現代のオリュンポスよ……」

 もう一人の連れ、Yが無駄に壮大なことをつぶやく。
 ちなみに二人ともさいたまスーパーアリーナに来るのは初めてだという。
 俺は昨年、アニメロサマーライブに参加したので二回目である。

「あれ? アリーナの中にスポーツジムがあるよ」
「うむ……きっと皆、あそこでギリシャの神々のごとき肉体を身につけるのであろう」


 いい加減なことを話しつつけやき広場へと進む。
 まだ開演一時間前だが、ものすごい数の人で賑わっている。多くの人が「NANA MIZUKI」などと書かれたTシャツを着用しており、熱心なファンなのだということがうかがい知れる。

「さいたまスーパーアリーナって何人ぐらい入るの?」
「たしか二万人から三万人ぐらいは収容できたはずだ」
「すげえ!」
「つまりライブ中うかつなマネをすれば、即座に三万人からフクロということだ」
「マジですか」


 まだ時間もあるので、グッズの物販に行ってみようという話になる。

「ハハ、君たち。さいたまスーパーアリーナのことならなんでも聞いてくれたまえよ」

 スーパーアリーナ経験豊富な俺が、未経験者二人に威勢良く告げる。

「じゃあ水樹奈々グッズの物販コーナーに連れてっておくれ」
「お任せあれ」


 その後、俺たち三人は三十分ほどあてどもなくスーパーアリーナの周辺をさまよい、案内役を買ってでた俺はUとYの信頼を著しく損なうことになる。

 物販コーナーはけやき広場を挟んだアリーナの反対側のスペースにあった。無数のテントが張り巡らされたキャラバンの如き空間に、大勢の人たちが並んでいる。軽く百人はいそうだった。
 もっと早く並んでいれば……というか、通ぶったアホに従って無駄に時間を浪費しなければ……そんな悔いを残しつつグッズ購入を断念する我々。

「あと三十分で開演だけど、今並んでる人たちライブに間に合わないんじゃね?」
「まさに本末転倒だが……そういう世界もあるのだろう」


 もうすぐ開演なので、アリーナ内部へ入場することにした。

「今宵、三万人が一つになるというのかい……」

 誰に問いかけているのか、突然真顔で妙なことをつぶやくU。

「ああ、なるさ……俺なんかは一体化するあまりLCLになるかもしれぬ」

 やはり真顔で答えるY。

「ほんますごいお人や、水樹奈々はんは……まさに現代の歌姫(ディーヴァ)やで……」

 俺もおかしなテンションになっていたため、なぜかナニワ金融的な口調になっている。

 ゲートを通り、指定の扉へ向かう。
 扉のむこう、アリーナの内部を垣間見たYが「うおっ」と奇声を発した。
 俺も昨年そうだったが、アリーナ内部の圧倒的な巨大さ、その異空間っぽさが醸しだす雰囲気に、初めて訪れる者は圧倒される。そして例外なくへんな声を漏らす。

 俺たちの座席はアリーナ五階の最前列。
 ステージからは遠いが、アリーナ全体が見渡せる眺めのよい席だ。

「なんか、もう客席のあちこちで青く光ってるよ」
「皆、もはや待ちきれないのであろう。歌姫(ディーヴァ)の降臨を……」
「ねえねえ、こっちも対抗してサイリウム折っていいかな?」
「まだ早いよ! 彼らが使ってるのは電池式のライトだから」


 はしゃぐUをたしなめる俺。

「イノウエさん! なんかバルログの爪のようなものが……あっ、なんだあれ! あそこにライトセーバーみてーなの持ってる人いるよ!」

 とにかくまわりのものが面白いのだろう、UとYは発見したものをしきりに報告する。

「あっ、なんかあそこの集団が雄叫びをあげてる。イノウエさん、なにあれ?」
「あれは……神聖なる戦士の儀式……戦の叫び(ウォークライ)だね」


 よくわからないので、Uにいい加減なことを言う俺。

「あのアリーナ席を取り巻いている土手?みたいなものはなんなんだろ」
「あれは観客の暴動を防ぐための防波堤であろう。暴徒を分断して力を削ぐ効果がある」


 そんな俺以上にいい加減なことを言い始めるY。
(もちろん暴動を防ぐ壁などではなく、いわゆる花道のようなものであった)


 そうこうしているうちに、開演の時間となった。

 その間、三時間ほどの体験は……それはそれはすばらしいものであった。
 立て続けにアグレッシブな曲を歌ってまったく衰えることのない水樹奈々の圧倒的な歌声に酔いしれ、さまざまなコスチュームに身を包んだ水樹奈々の姿と演出に魅了されつづけた。
 個人的には、大好きでぜひライブで聴きたいと思っていた曲「DISCOTHEQUE」「POWER GATE」が歌われてたいへん感激した。

 アリーナは終始、熱狂の坩堝であった。
 盛り上がりすぎて手からすっぽ抜けたのであろう、五階席から誰かのサイリウムが流れ星のように落ちて行くのを何度か見かけた。下の人たちに当たって怪我がなければよかったのだが。

「さすがは水樹奈々様や……ほんまに三万人がひとつになりよったで……」

 アンコールが終わり、水樹奈々様がサイン入りのご当地グッズを客席に投げ入れ始めた。
 それらは手で放られたりバズーカ的なもので射出されたりしていたが、天上にも等しい遠さの五階席には間違いなく届かないため、俺たちは下界で繰り広げられる熾烈なグッズ争奪戦をほとんど神仏の視点で眺めていた。

「ああ、せっかくひとつになった皆の心が……あえて最後に不和の種を投げ入れるとは、水樹奈々様は罪なお方やで……」

 その後、今年の冬に東京ドーム二日間公演が行われる旨が発表され、三万人が一斉に万歳三唱。
 どこまで昇るのか、水樹奈々……。


 すでにアンコール後の曲も終わり、贈り物タイムも終わり、重大発表も終わった。
 一部のアリーナ客は、すでに席を立って帰ろうとしていたりもする。

 これで、もう宴も終わりか……。
 アリーナ全体がしんみりとそんなムードになってきたとき、水樹奈々様が観客席に向かってこうのたまった。

「終わりたくないよ~」

 沸き立つ観客。

「もっと、ずっと歌っていたいよ~!」

 さらに沸き立つ観客。
 そして彼女はいたずらっぽく笑って「歌っちゃおっか!」そう言い、バックで流れていたインスト曲に合わせ、本当にもう一曲歌い出したのだ。
 もちろん観客全員、大喜びである。

 もともとの予定にない完全なアドリブなのであろう。どこか曲の音響がおかしかったが、そんなことはおかまいなしに、再びアリーナに熱狂が戻る。
 そうして、本当に最後の最後まで、ライブは興奮に包まれたまま幕を閉じた。


 帰り際、俺の隣に座っていた男女二人組の観客に「お疲れさまでした!」と挨拶された。
 ライブの間ずっと俺といっしょにコールや声援を送っていたため、この二人とはなにか無言の絆のようなものが生まれていた。むしろ俺から声をかけようかなと思っていたのだが、どうやら彼らも同じ思いだったらしい。
 てっきりカップルなのだろうと思っていたのだが、なんと兄妹だという。
 そして俺たちと同じく水樹奈々様のライブ初体験であったという。
 なにやら親戚に水樹奈々様の縁者がいるとかで、そのツテで直筆のサインを持っているという。
 彼らはそんなようなことを嬉しそうにしゃべっていた。
 じゃ、もしご縁があったら東京ドームで会いましょう!みたいなことを話して気分良く俺たちは別れ、神々の住まう霊峰にも似たさいたまスーパーアリーナの地を後にした。

 ところでアリーナの入口には各界から寄せられた祝福の花輪が展示されている。
 帰りがけそれらを眺めていたところ、なぜか「ゆでたまご」先生から贈呈された花輪を見つけた。水樹奈々様とどういうつながりなのだろう……と三人して首をひねるが、答えは出なかった。



 観客の帰宅ラッシュで交通網が一時的に麻痺していたので、時間つぶしがてら近所の蕎麦屋で飯を食って帰った。
 お疲れのYは盛りそばと生ビール、腹減りの激しいUはカツ丼を頼んでいた。
 俺はヘルシー気取りでサラダそばを食い、帰宅して体重を測ると前日より2kg減っていた。
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