百万円もらえる夢

2012/01/06

 初夢の話をしよう。

 夢の中で、俺はふわふわした空間にいた。
 あのいかにも夢っぽい、いろいろなものがあやふやなところに俺はいた。
 座っているでも立っているでもなく、ただそこに存在していた。
 そこへ、誰かの声が聞こえた。

「おまえにお年玉をやろう」

 頭の上のほうから響いてきたその声はとても重々しく荘厳で、なんとなく俺は「あ、これは神の声だな」と思った。もちろん本当のところがどうなのかはわからない。そもそもが夢の中の話だ。

「ください、お年玉」
 俺は反射的に答えていた。
「でもおまえ、もう三十路超えてるし、お年玉って歳じゃないよな……」
 そんな言葉とともに声が遠ざかっていったので「いやいや、そこをなんとか!」などと俺は叫び、心から嘆願した。
「……仕方がないな」
 面倒くさげに声が戻ってきて、告げた。

「では、おまえが今までの人生で心の底から絶望した回数×一万円だけお年玉をやろう」

 ひどくいやなお年玉の算定方法だった。
 そもそも俺はそんなにしょっちゅう絶望なんかしちゃいない。
 あったとしても、一回か、二回か……。
 というか「心の底から絶望」なんて、ひょっとしたら人生で一度も経験してないんじゃないだろうか。

「えーと、ちょうど百回だから、百万円だな」
「えっ!」


 俺は驚いた。
 そんなにたくさん深く絶望した記憶など、とんとないのだが……。

「人間はいくら深く絶望してみても、たいてい都合よく忘れるからな。あるいは無意識に目をそむけたりな。そういうので隠れてるのを全部カウントしたら、たいていこういう数字になるもんよ」
「そういうもんですか」
「そういうもんよ」

 そういうものらしかった。

 しかし、百万円か。
 いいのだろうか、そんな大金をもらってしまって。
「いいんじゃねえの」
 だいぶくだけた口調でその声の主は告げた。
「おまえの絶望なんて、しょせんそんな程度の価値だよ」
 言葉の意味はよくわからなかったが、わからないなりに俺は少し傷ついた。
 その、ほんのちょっとした心の痛みで目がさめた。

 驚いたことに、枕元には百万円とおぼしき札束が置いてあった。
 マジかよ。
 すげえ。
 なにに使おう。
 ゲーム、漫画、アニメ、音楽、パソコン、車、旅行……。

 そのとき、かたわらの携帯電話に着信があり、バイブレーションによって小刻みな振動音を立てた。
 実家の父親からだった。
 電話に出ると、やたらと語尾のアクセントの強い馴染みの声が聞こえた。
 元気そうに聞こえるが、ときおり大きな疲れと老いを滲ませる声。

 とても長い世間話のあと、彼はおずおずと本題に入った。
 父親の用事は、一言で言えば金の無心だった。
 近日中になんとか百万円用意できないと、首をくくるしかない。
 簡単にまとめると、そういうような話だった。

 百万円。
 百万円か。

 俺はできるだけ優しく聞こえるように、注意深く声を出した。
 わかった。
 百万円はなんとかなるから、冗談でも死ぬとか言わないでくれ。
 とりあえず生きてくれ、頼むから。
 何度も何度も礼の言葉を繰り返す携帯電話をオフにした。

 そういう次第で、お年玉の用途は決まった。
 親孝行だ。
 いきなり降ってわいた金の使い道なんざしょせんそんな程度のものだし、人生における絶望とやらの対価の使い道にしては、むしろ上等とさえ言えた。
 心にわだかまっていた数式の中に一つの等号が書き込まれたような気がして、俺は奇妙な安堵をおぼえた。




……という、びっくりするぐらい現実感のない初夢を見ました。
 今年もよろしくお願いします。
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