劇場版「魔法少女リリカルなのは」
狂乱のうちに夏のコミケが終わり、虚脱した日々を過ごしていた。
初めての長編小説「バブルピース」はおかげさまで好評をいただいている。繊細な青春もののような恋愛物のようなホラーのような……と、実にさまざまな感想をいただいているが、読んだ方は共通しておおむね楽しんでくれたようで、あーよかった本当によかったと胸をなでおろしている次第。
近日中に通販も開始される予定なので、よろしくお願いしたい。
*
宣伝がてらの前口上はここまでとして「魔法少女リリカルなのは」のことを書く。
つい先日、とある人(仮にM氏とする)に「現在公開されている劇場版なのはを観に行きませんか」と誘われ、これを機に未視聴であったTV版の「なのは」(無印)を観始めた。
ついでに、劇場版の一作目も観た。
そのような準備を終え、いよいよ本命の劇場版「なのは」ニ作目……正確には「魔法少女リリカルなのはThe MOVIE 2nd A's」を観るべく、俺とM氏は劇場近くで落ち合った。
「なのは、予習してきたよ」
俺はM氏に言った。
「どうでしたか」
「TV版は毎回絵柄が変わるので、ある意味スリリングだった」
「ああ……なるほど」
M氏は軽くうなずき、先を促す。
「そして劇場版は……バトルシーンがすごく豪華でかっこよくなっていた。あと絵柄の危うさがなくなり、安心して観ることができた」
M氏はへんてつもない俺の感想にひとしきり耳を傾けたのち、おもむろに口を開いた。
「僕の感想は、少し違いますね。劇場版一作目は、あらゆる点においてTV版をうまくまとめ、より高いレベルに昇華していることには同意しますが……一点だけ不満があります。僕にとってそれは、致命的と言ってもいい」
「不満?」
俺が思わず怪訝そうな声音で訊き返すと、彼はゆっくりと首を振りつつ答えた。
「フェイトの拷問シーンがTV版より少なくなっていることです。これはいただけない」
「ええー……」
*
M氏のいただけない願望をさらっと聞き流し、劇場へと向かう。
「なにせ”なのは”ですからね……きっと行列ができているに違いありません」
いやっほうテンション上がってきましたよ、などとはしゃぐM氏。
いくら数多くの「完売」伝説を持つなのはの劇場映画と言えど、封切りからかなり日数も経ち、しかも平日の昼間の回である。さすがにそれはなかろう……と内心思っていたところ、案の定というか当然のごとく行列などはどこにも存在せず、劇場内は五割の入りというところであった。
俺たちは席を選び、しばし待つ。
十五分ほどの別の映画の予告編のあと本編が始まる旨のアナウンスが流れる。
余談だが予告編はえらく面白くなさそうな作品が揃っており、唯一面白かったのは「怒らすケイジ」という茶魔語を思わせるキャッチコピーであった。あと家族を拉致されるパターンの映画が三つぐらいあった。流行っている設定なのだろうか……。
そうこうしているうちに、本編が始まる。
そして……二時間あまりの時間が流れた。
*
ここで映画の内容を語ることは難しい。
ただ一つ言えるのは、俺はこの映画を心のどこかでなめていた。
そうと意識せず見くびっていた、ということだ。
劇場版一作目の延長線上にある映画。
だから、きっと同じ程度におもしろいだろうと。
そうではなかった。
延長線上にある、などという生易しいものではない。
劇場一作目の要素すべてを飲み込み、発展させ、ときには踏み台にすらして、はるか上の次元の高みへと跳躍した作品。
それがこの「魔法少女リリカルなのはThe MOVIE 2nd A's」であったのだ。
その中盤から終盤にかけて。
浅薄な経験しか持たぬ俺などにとっては、ほかに比肩しうるもののないとすら思える圧倒的な物語展開のさなかで。
俺の観たいもの、好きなものが次から次へと……まるで尽きぬご馳走、果てない満漢全席のように供される至福の刻に抱かれながら。
気がつけば、すぐ隣に座るM氏が低く嗚咽を漏らしていた。必死に声を押し殺す気配。
かくいう俺も泣いてる。
あふれ出る涙で視界がにじむが、スクリーンでなのはたち魔法少女が撃ち放つ魔法光だけがひどく鮮明だった。
そっと耳を澄ませば、劇場のそこかしこから声が聞こえる。
いや、それは声とは呼べない。わずかなさざめきのごとき、むせび泣きの音。
劇場に散在する男たちが発する、慟哭の唱和だ。
もはや思考や言語もなく、ただ俺たちは……その魂の共振と表現してもよい壮大なハーモニーの中で至高の映画体験を共有し――気がつけば水樹奈々が歌う主題歌「BRIGHT STREAM」を耳にしながらエンドロールを眺めていた。
*
この映画のことを具体的に語るのは難しい。
ネタバレとかそういうものを抜きにしても、ただ言葉でそれを伝えるのは困難である。
だが、それでもただ一つ……たった一つだけ言えるのは、すなわち以下のようなことだ。
「とりあえず、なのはとフェイトはもう結婚しちゃえよと思いました」
「あ、それは俺も思った」
初めての長編小説「バブルピース」はおかげさまで好評をいただいている。繊細な青春もののような恋愛物のようなホラーのような……と、実にさまざまな感想をいただいているが、読んだ方は共通しておおむね楽しんでくれたようで、あーよかった本当によかったと胸をなでおろしている次第。
近日中に通販も開始される予定なので、よろしくお願いしたい。
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宣伝がてらの前口上はここまでとして「魔法少女リリカルなのは」のことを書く。
つい先日、とある人(仮にM氏とする)に「現在公開されている劇場版なのはを観に行きませんか」と誘われ、これを機に未視聴であったTV版の「なのは」(無印)を観始めた。
ついでに、劇場版の一作目も観た。
そのような準備を終え、いよいよ本命の劇場版「なのは」ニ作目……正確には「魔法少女リリカルなのはThe MOVIE 2nd A's」を観るべく、俺とM氏は劇場近くで落ち合った。
「なのは、予習してきたよ」
俺はM氏に言った。
「どうでしたか」
「TV版は毎回絵柄が変わるので、ある意味スリリングだった」
「ああ……なるほど」
M氏は軽くうなずき、先を促す。
「そして劇場版は……バトルシーンがすごく豪華でかっこよくなっていた。あと絵柄の危うさがなくなり、安心して観ることができた」
M氏はへんてつもない俺の感想にひとしきり耳を傾けたのち、おもむろに口を開いた。
「僕の感想は、少し違いますね。劇場版一作目は、あらゆる点においてTV版をうまくまとめ、より高いレベルに昇華していることには同意しますが……一点だけ不満があります。僕にとってそれは、致命的と言ってもいい」
「不満?」
俺が思わず怪訝そうな声音で訊き返すと、彼はゆっくりと首を振りつつ答えた。
「フェイトの拷問シーンがTV版より少なくなっていることです。これはいただけない」
「ええー……」
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M氏のいただけない願望をさらっと聞き流し、劇場へと向かう。
「なにせ”なのは”ですからね……きっと行列ができているに違いありません」
いやっほうテンション上がってきましたよ、などとはしゃぐM氏。
いくら数多くの「完売」伝説を持つなのはの劇場映画と言えど、封切りからかなり日数も経ち、しかも平日の昼間の回である。さすがにそれはなかろう……と内心思っていたところ、案の定というか当然のごとく行列などはどこにも存在せず、劇場内は五割の入りというところであった。
俺たちは席を選び、しばし待つ。
十五分ほどの別の映画の予告編のあと本編が始まる旨のアナウンスが流れる。
余談だが予告編はえらく面白くなさそうな作品が揃っており、唯一面白かったのは「怒らすケイジ」という茶魔語を思わせるキャッチコピーであった。あと家族を拉致されるパターンの映画が三つぐらいあった。流行っている設定なのだろうか……。
そうこうしているうちに、本編が始まる。
そして……二時間あまりの時間が流れた。
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ここで映画の内容を語ることは難しい。
ただ一つ言えるのは、俺はこの映画を心のどこかでなめていた。
そうと意識せず見くびっていた、ということだ。
劇場版一作目の延長線上にある映画。
だから、きっと同じ程度におもしろいだろうと。
そうではなかった。
延長線上にある、などという生易しいものではない。
劇場一作目の要素すべてを飲み込み、発展させ、ときには踏み台にすらして、はるか上の次元の高みへと跳躍した作品。
それがこの「魔法少女リリカルなのはThe MOVIE 2nd A's」であったのだ。
その中盤から終盤にかけて。
浅薄な経験しか持たぬ俺などにとっては、ほかに比肩しうるもののないとすら思える圧倒的な物語展開のさなかで。
俺の観たいもの、好きなものが次から次へと……まるで尽きぬご馳走、果てない満漢全席のように供される至福の刻に抱かれながら。
気がつけば、すぐ隣に座るM氏が低く嗚咽を漏らしていた。必死に声を押し殺す気配。
かくいう俺も泣いてる。
あふれ出る涙で視界がにじむが、スクリーンでなのはたち魔法少女が撃ち放つ魔法光だけがひどく鮮明だった。
そっと耳を澄ませば、劇場のそこかしこから声が聞こえる。
いや、それは声とは呼べない。わずかなさざめきのごとき、むせび泣きの音。
劇場に散在する男たちが発する、慟哭の唱和だ。
もはや思考や言語もなく、ただ俺たちは……その魂の共振と表現してもよい壮大なハーモニーの中で至高の映画体験を共有し――気がつけば水樹奈々が歌う主題歌「BRIGHT STREAM」を耳にしながらエンドロールを眺めていた。
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この映画のことを具体的に語るのは難しい。
ネタバレとかそういうものを抜きにしても、ただ言葉でそれを伝えるのは困難である。
だが、それでもただ一つ……たった一つだけ言えるのは、すなわち以下のようなことだ。
「とりあえず、なのはとフェイトはもう結婚しちゃえよと思いました」
「あ、それは俺も思った」
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