個人的ゲーム史4

2013/05/17

■FMタウンズとPC98
 高校時代、俺はパソコン研究部なる怪しい部活に入っていた。
 情報処理室の片隅にあるスペースに置かれているFMタウンズでプログラムの勉強をするのが主な活動。ゲームのプログラムの参考にするため、という名目でタウンズでゲームをすることも許された。
 そういうわけで、なんとなくパソコンで遊びたいボンクラたちが集まるゆるい空間だった。

 だが、当時の俺たちは青春真っ盛りであり、絵に描いたような思春期であった。
 結論から言うとエロゲーをやりたくて仕方がなかったのだ。
 情報処理室には十数台のPC-98が設置されていた。今では信じがたいが、HDDが内蔵されておらずフロッピーディスクを読み込ませてソフトを走らせるタイプのコンピュータだった。
 それにボンクラ連中がどこからともなく持ち寄った怪しいエロゲーのフロッピーを挿入して遊んだ。夢中で遊んだ。かの名作「同級生」などはフロッピーディスク数枚組で、場所を移動するたびに入れ替えが発生したが、そんなものを苦にもせず俺たちはゲーム・オブ・エロスの世界に耽溺した。
 今ではちょっとゲーム中に読み込みが入るだけで「快適さが足りないね……プレイアビリティっていうかね……」などとしたり顔でほざく俺だが、当時はその読み込みすらも楽しんでいたように思う。
 フロッピーを入れた瞬間の、あの「かちゃり」という、そこにあるべきものを正しくはめ込む快感。そして磁気データが読み込まれて電気信号が走る。やがて画素の粗いドット絵の美少女グラフィックが15インチのモニターに表示される。その虚構に俺は魅了される。
 生身の女子と交際するという現実がとてつもなく遠い……距離にしたら太陽系とアルファ・ケンタウリ星系ぐらいに隔たりのあるような清く正しいボンクラの俺たちであったから、それはもう魅せられた。
 恥じらいを捨てて率直に言えば、モニタ越しの彼女たちに恋をしていた。
 友人からパソコン雑誌を借りて、気になった女の子のイラストを一生懸命に模写してから返す、というような気持ち悪いことすらしていた。振り返ってみると歪んだ情熱の発露っぷりがはなはだしいが、インターネットもなかった頃の十代の男子の思い出としては、ごくありがちな話だと思いたい。


 なお、情報処理室のPC98でゲームを遊ぶことは禁じられていた。
 たまに活動を覗きに来る顧問の先生にその行為の現場を見つかると、こっぴどく叱られた。

 だが、このシチュエーションは俺たちのチャレンジ精神を大いに駆り立てた。
 PC98でエロゲーを嗜む場合は、基本的に入り口から死角になる機体を選択する。ごく初歩のテクニックである。
 だが先生も間抜けではなく、実際になにをやっているのかモニタを覗いて確認しようとしてくる。そこで、傍らには必ずパソコンの教本(BASIC入門など)を置いておく。先生が接近してきたら、悟られぬよう自然な動作でフロッピーを入れ替えつつPC98をすみやかに再起動してDOSの画面を表示。さも「勉強中です」という雰囲気をかもし出す。これでたいていは回避できる。

 しかし、この手法ではゲームを強制終了させるのが必須となってしまうため、後年はすぐ隣のPC98をダミーとしてDOSやBASICを起動しておき、いざという場合はエロゲーをプレイしていたPC98のモニタだけ落として先生のチェックをやり過ごす……という非常にハイリスク・ハイリターンな技法が生み出された。成功率を高めるために、ボンクラどもが教室内に分散しておき、タイミングよく「先生、ちょっと教えてもらいたいことがあるんですが」などと声をかけて、特定のPCから注意を逸らすような真似までしていた。

 学校で遊ぶエロゲーは本当に楽しい。
 俺が高校時代に学んだ数少ない真理のひとつだ。
 やたら楽しくて、スリリングで、どんなしょうもないゲームであろうと異常に興奮した。

 女の子と遊ぶこともなく、それどころか目を合わせたり話すことすらまれで、同じクラスの中堅的な人気者ポジションだったYくんからは「雑魚グループ」と陰で呼ばれていたような俺たちだったけれど、あの経験だけは誇れるものだと思う。
 倫理的とかその他もろもろに照らすとけっしてほめられたものではないし、むしろ人として学生として恥じ入るべきエピソードであることは百も承知で、それでも俺は、十数年経った今だからこそ、人知れずささやかに誇りたい。
 俺を含めた愛すべき数人のボンクラ男子高生。今はどこでどうしているかわからない栄光なきパソ研メンバーたちのために、誇ってやりたいと思うのだ。
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