魔界塔士

2005/11/09

 帰り、近所のスーパーで惣菜やらを買ったときのことだ。

 店内に、ヘルメットをかぶったまま買い物をしている男性を見かけた。
 三十代半ばといったところか。灰色のスーツ姿の彼は、晩御飯とおぼしき品々をレジに持って行き、会計を済ませ、カゴからビニール袋に品物を詰め替え、スーパーを出た。
 やはりヘルメットはかぶったままだ。

 彼に少しだけ遅れるタイミングで私はスーパーを出た。私のすぐ前、1、2メートルのところをビニール袋を片手に下げ、男が歩いている。
 もちろんヘルメットはかぶったままだ。
 店のすぐ近くに原付でも停めているのかと思っていたが、それらしきものに乗る気配は微塵も無い。彼は当然のようにヘルメットをかぶり、夜道を歩いていく。

 彼の背後を歩きながら、私はだんだんと気になってきた。
 この男、なぜヘルメットをかぶっているのだろう、と。

 ファッション……だろうか。いやいやまさか、と胸中で一笑に付そうとしたが、その方面にとんと疎い自分のこと、実は知らないところでこのようなモードが流行している可能性は否定できない。よくよく見ると、あのヘルメット、あれはあれでひどく洒脱なものに思えないこともないような。
 それをサラリとかぶりこなすあたり、彼がとんでもないオシャレの達人に見えてくる。

 そのとき、偶然、彼の手にしたビニール袋の中身が目に入った。
 その十数センチ四方の箱型をした食品を見て、私は驚愕した。
―――ぺヤング。
 ぺヤングソース焼きそば。
 それも、大盛り―――。
 こいつ―――。

 こいつオシャレ違う。
 私は本能で悟らざるを得なかった。
 だとすればいったい、この男は何なのだ。いったい何の意味があって、この徒歩の往来にあっていたずらに頭部の防御を固める必要があるというのだ。

 待てよ。
 防御を固める必要が、ある?
 もしや彼には、防御を固めなければならない理由があるのではないのだろうか。
 頭部用の防具。そしてヘルメットとくれば、アライのメットであろう。おそらくはゾクの町で購入したものであろう。6000ケロぐらいで。間違いない。
 早い話が、彼は魔界塔士なのであろう。
 そう考えると、神経質なまでに防御を固めるのにも納得がいく。ぺヤングも、ヒットポイント回復アイテムとして役立つのだろう。

 あ!
 すばらしいことに気が付いた。
 彼と、すぐ後ろを歩く私。はたから見たら、まるでパーティーを組んでいるようではないか。
 旅の仲間というヤツだ。
 さしずめ私は……そう、エスパーであろう。ファイアとかケアルとかで地道に彼のバトルをサポートする、とても渋い役どころだ。
 そう考えていると、前を歩く彼が、傷だらけの戦士に見えてきた。いくら防御を高めても、その熾烈な戦いの日々は、彼の肉体を蝕んでいるのだろう。

 彼を助けてあげなければ。唐突にそんな思いに駆られた私は、彼の背中に向かって小さく手をかざし、

 「ケアル」

 とつぶやいてみた。世界で何番目かに有名な、癒しの魔法である。
 その声が聞こえたのか、ヘルメットをかぶった彼は、私の方を振り向いた。
 刹那、視線が合ったかと思うと、彼はスーパーから一丁目ほど離れた道端に停めてあったスクーターにまたがり、キーを入れてエンジンをかけ、小気味いい音を響かせながら道路を走っていった。
 道交法を正しく遵守した彼とスクーターの姿は見る見るうちに小さくなり、さすがに私の回復魔法も届くまいと思われた。

 一人残された私は、自分の胸に掌をあてて、

 「ケアルラ」

 ちょっと奮発して、上級回復呪文を唱えた。
 この世すべての傷負いし者に、天よ、どうか癒しの光を。
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コメント

  1. 成沢 | URL | -

    どうもです。
    特に優しいつもりはないけど、それなりに。

  2. 月人 | URL | -

    魔界塔士サガはエスパーがモンスターに変わるバグが起きて投げ出した思い出があります。

    成沢さんは変わらないで。
    いつでも優しさを忘れないままでいて。

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