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モーニングスター男子

2016/10/18

ある夜のことだ。
ぼろ雑巾のように働き、泥のように眠っている俺の枕元に武士が座っていた。
その男は武士というか、どちらかと言うと落ち武者という感じだった。ざんばらの頭はちりぢりにほつれ、肩には折れた矢が突き立っていて、いっそう落ち武者感に拍車をかけていた。

仰天して声も出ない俺に対し、その落ち武者は大きく肩を落としつつも正座の姿勢で、フォントにすると淡古印っぽい低くしわがれた声音でおもむろに語りはじめた。
「最近、ちまたでは刀剣男子というものが流行っているではござらんか」
どれだけ話題に脈絡がないんだよ。お前は俺のクラスメイトかなにかかよ。
俺の心中を察するふうもなく落ち武者は言葉をつづけた。
「だから拙者は思うのでござる。そろそろモーニングスター男子の時代が来てもいいと」
「いやいやいや、そんな時代が来てもいいわけはないだろ」
ようやく声が出た。
珍妙な時代の到来を否定する俺の言葉に対し、さも心外といった表情を浮かべる落ち武者。少しイラッとして俺は質問した。詰問になっていたかもしれない。
「……いったいお前は突然なんなんだ。落ち武者っぽい風体のくせにどうしてモーニングスター時代の到来を望むんだ」
「前者の質問については、そう、拙者は守護霊……お主の生命エネルギー……いや生命エナジーが著しく低下したので心配になって枕元に立った次第」
なぜエネルギーをわざわざエナジーと言い直したのか。というか、それ以前にいろいろ言いたいことはあるが……。
おそらく微妙な表情をしているであろう俺にかまわず、落ち武者はとうとうと語った。
「そして後者の質問……拙者とモーニングスターとの関係。それは一言で言い表すことはでき申さぬ。それをあまさず語るには相当の時を要するでござる。それこそ夜明けの星が見える刻限にまで及ぶでござろう……モーニングスターだけに」
心が疲れているとき、この手の「うまいこと言ってやった」系の言葉は本当に頭にくる。
「と、そういうわけでですね、モーニングスター男子の話なんですけれどもね」
身も蓋もなく武士口調をかなぐり捨てながら、落ち武者は強引に話題を戻した。どうしてもモーニングスター男子とやらの話をしたいらしい。
「わかったわかった。で、お前はどういうキャラを考えているんだ。モーニングスター男子とやらの」
「えっ? えーと、あの……なんだろう……いつもトゲトゲしくてドSっぽい男子、とか」
「ありがちというか、それ以外に思いつかんからな。他には?」
「うーんと……こう、さわるとチクチクしてる男子……とか……」
俺はキレた。
「お前、言い出したわりにさっぱり具体性がねえじゃねえか!」
「仕方なかろう! モーニングスターはウィキペディアにもたいした情報がないのでござる! エクスカリバーみたいないわくつきのモーニングスターもなさげだし!」
落ち武者はキレ返してきた。くそっ、こいつかなり面倒くせえ。なにが守護霊だ。なにがウィキペディアだ。たぶん自称守護霊の地縛霊とか怨霊とかそういうよくない感じのあれだ。
「どだい無理なんだよ、モーニングスターが主役になるなんて。正宗とか村正とかそういう固有のキャラクター性が皆無だし」
「むう……オンリーワンになれないのならば……ナンバーワンになるしかないでござるな」
したり顔で落ち武者は言ったが、意味はわからない。
「いや、それも絶対無理だしさ……」
「しかし実際、刀は使うのに高度な技術が必要でござる。すぐに刃こぼれしたり折れたりと信頼性もいまいちでござる。しかしモーニンスターであれば、相手を思い切りぶっ叩くだけでいいのでござる。それでトゲがうまいこと甲冑とかを突き破って致命傷をたやすく与えられるのでござる。マジ刀とか超いらね」
「……ほんとお前、なんで武士の姿で出てきたんだよ」
言語の乱れが甚だしい。
「生前に拙者がもしモーニングスターを手にしていたなら、今もまだ鎌倉幕府がつづいていたでござろうて……」
「どこまでモーニングスターの力を信じてるんだよ。ていうかお前、そんな昔の時代の人間なのかよ。まあ、もうこいつの中ではそういう設定なんだとこっちで勝手に納得するけどさ……」
「……そんなこと言うなよ!」
なぜか落ち武者が苦しげな裏声で言った。まったく意味がわからない。
「別れ際に、”設定”なんて…そんな悲しいこと言うなよ…!」
また裏声だった。
「……」
「……」
かなりの間があってから、俺はそれが碇シンジ(CV:緒方恵美)の物真似なんだとようやく気づいた。
「……そんなこと言うなよ!」
「うるさいよ! それ、おそろしくわかりづらすぎるし、さっぱり似てないし唐突っていうかもう、なんなんだよお前……って、別れ際?」
「そうでござる。名残惜しけれども、訪れたる別離の時……」
まったく名残惜しくはなかった。
「けっきょくお前は、なにがしたかったんだ」
疲れていてつい漏れてしまった俺の問いに、落ち武者は最初に出していた淡古印っぽい渋い声で答えた。碇シンジの下手な物真似を披露したあとで、今さらどう取り繕っても遅いが。
「決まっているでござる。来るべきモーニングスター時代の到来に備え、守護霊としてお主に忠告するために現われたのでござるよ」
「百歩譲ってそういう意図で出てきたとして、最初モーニングスター男子とか、ありえない話をしてた意味がわからんのだが……」
「……そんな悲しいこと言うなよ!」
地味に気に入っているのか、似てない物真似をさらに繰り返して、落ち武者は消えた。
それに呼応するように、いつしか俺の意識も遠くなっていった。

朝が来て目覚まし時計が鳴り、俺はしぶしぶ寝床から起きあがる。
かつてないほど心身が疲弊しているのがわかった。
落ち武者との会話は夢だったのだろう。たぶん、疲れていたからあのようなおかしな夢を見るのだ。

だが夢オチではなかった。
部屋の中には一振りのモーニングスターが残されていたからだ。
長さ1メートルほどの棍棒状の武器。握り部分には滑りどめの革が巻かれていて、先端は球状に膨らんでおり、そこから鋭い金属製のトゲが何本も放射状に突き出している。絵に描いたようなモーニングスターが無造作に部屋の床に置かれていた。
よく見ると自重で床のフローリングに深く突き刺さっており、それが紛うことなき本物の武器であることを物語っていた。
「えー……」
俺は腹の底から脱力した声を漏らし、しばし呆然とした。
そうしてから、おそるおそるそれに手を伸ばし、持ち手とおぼしき部分を握り、ぐっと持ち上げてみた。
「まったく……なんなんだよ、これ……」
モーニングスターは想像していたよりも重くはなかった。
いや、たぶん3キロぐらいはあり、それなりに重いのだが、バランスがいいのかあまり気にならない。
ためしに下から上に振ってみる。先端が重いので、振りはじめに若干ぐらつく感じはあるが、何度か振るうちにコツが分かり、スピーディーに勢いよく振れるようになった。

そこで俺はふと我に返り、悠長にモーニングスターを振り回している場合ではないことに気づいた。今日も会社だ。終電の時間まで働き、場合によっては泊まり込み、まるで明けない夜のように果てしない闇に包まれた仕事がはじまるのだ。
俺は憂鬱さを晴らすように部屋の窓を開けた。
外からいきなり怒号が聞こえた。
男たちが発する野太い怒鳴り声と、短い悲鳴。少し遅れて長い悲鳴……おそらくは断末魔の声。
見れば、外で男たちが戦っていた。
窓から見える歩道の上で、スーツ姿の中年と、パーカーを着た若者が対峙している。傍らには何人かの人が、大量の血を流して倒れている。
中年と若者は、それぞれが示し合わせたようにモーニングスターを手にしていた。
少し離れたところには、主婦とおぼしき女性が犬の散歩をしていた。右手には犬のリード、左手にはモーニングスター。
その横をランドセルをしょった小学生の男女が駆け抜けていく。ランドセルからは、リコーダーではなくモーニングスターが飛び出ていた。
「マジかよ」
俺はつぶやいた。
そんな口にしてもなんにもならないことを、ついつぶやいた。
そのとき部屋の玄関のほうからものすごい打撃音が聞こえた。
何度も何度も、まるで手荒すぎるノックのように。
なにごとかと思って見てみると、そこには我が家のドアを突き破って飛び出している星状の鋭いトゲがあった。
俺はさっきから握ったままだった右手のモーニングスターを、知らぬうちにいっそう強く、力の限り握りしめる。
にぶくもやがかかっていた頭の中が晴れ、覚醒していく。
それは夜明けだった。
あるいは光であり、目覚めだった。
夜に閉ざされた世界の終わりを告げる、ひどくいびつに輝く明けの明星だった。
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