ブラッドボーンがおまえを真の男にしてくれる

2017/01/23

ブラッドボーン 

よく来たな。正月も終わり、気がつけば1月も終盤に差し掛かろうとしている。この一年のはじまりに、おまえはなにをして過ごしていた? おそらく腰抜けのおまえはいつものように流行りの映画をそそくさと見に行ってはあたりさわりのない感想をツイッターに投稿したり、しょぼいメシの写真やら自撮り写真やらを誰にも頼まれないのにせっせとインスタグラムにアップロードして自分のみみっちい世界を守るのに必死だったのだろう。あるいは噂の新型ゲーム機ニンテンドースイッチの予約に忙しかったかもしれない。俺も予約した。
そうして翌朝からはじまるつまらない仕事にため息をつき、なんてつまらない人生なんだというむなしい感慨から目をそらし、つとめて忘れるようにしながら眠りにつく。そうこうしているうちに1月は終わり、2月も終わり、気がつけば1年が過ぎている。なにごとにも熱くなれず、大事なことがなにかもわからぬまま、場末の酒場で出会ったベイブと乳繰り合い、犬のように交わり、子を生み育て……やがて老いて死ぬ。THE END OF MEXICO……。だがおまえがプレイステーション4を所持し、真の開拓精神をもっているなら話は別だ。まだ遅くはない。おまえにはブラッドボーン(DLC入り)をプレイするという選択肢が残されている。

もしおまえがスマホゲームにかまけてプレイステーション4のひとつも持っていないような腰抜けなら、もう俺から言うことはなにもない。今日も明日もそのあともずっと通勤電車の中でうつむきながらスマホをいじり、ときには自撮りをすればいい。
ブラッドボーンの世界ではそんな腰抜けは二秒と生きられはしない。自撮りをしている奴は死ぬ。
ブラッドボーンの舞台は古都ヤーナム。おまえはなにやらよくわからない病気にかかり、治療法を求めてここに来た。おかしな老人に改造手術をされて目覚めると一切の記憶を失っていた。薄暗い病室で目覚めたおまえは、ふらふらと外に出て、いきなり巨大な獣に食い殺される。だが心配しなくていい。この敗北はあらかじめ定められたもので、いわばファイナルファンタジー2における最初の戦闘と同じだ。
不思議な夢の世界で再び目覚めたおまえは、そこで獣を狩る狩人としての武器を与えられる。そうしておまえは病室へ舞い戻り、先程の獣に復讐する。この街に来て最初の復讐をとげたおまえの両手は、おびただしい量の返り血に染まっているはずだ。それはおまえ自身の新たな誕生の証であり、単なる腰抜けから真の男へと一歩近づいた証なのだ。

それでもどこか物見遊山でヤーナムを探索するおまえは、この街の連中が全員例外なく鉈や鍬や鋤あるいは銃器で武装し、こちらを見るやいなや問答無用で襲い掛かってくることに気づいて衝撃を受けるだろう。ここではだれもが血に飢え、血に酔っている。おまえが住んでいるカリフォルニアのように怠惰と安穏にまみれた地ではない。そう、いわばここはメキシコだ。ここで生きていけるのは真の男だけだ。自撮りをする奴から死んでいく。
そして甘ったれたおまえは、道端に落ちているアイテムをなんの疑いもなく取りに行き、死角に隠れていた男に背後から刺し殺されるだろう。これまでのゲームにおいて赤ん坊がミルクを与えられるように何の苦労もなくアイテムを入手してきたおまえは、またしても衝撃を受けるはずだ。そこでゲームを投げ出すか、教訓を得て成長につなげるかはおまえ次第だ。
アイテムを見つけたら、まず周囲を確認しろ。というか、むしろアイテム自体を罠の一種だと思って注意深く行動しろ。そうやって苦心の末に手に入れたアイテムの数々は、いろいろな意味でおまえを強くし、真の男へと近づけてくれるだろう。

やたら尖った農具を持った男たちがうろつく危険な街を通り抜け、やがておまえはボスと遭遇するだろう。順当に進んでいれば聖職者の獣か、ひねくれた道を進んだ場合はガスコイン神父に出会い……そしてごみのように一蹴されて死ぬ。
このゲームのボスは本当にタフな連中が揃っている。テキーラの産湯で生まれ、三食すべてタコスかドリトスだけを貪り、砂漠のように乾いた土地で育っている屈強な男たち。いわば真のメキシコ人だ。初見で勝つのはおまえがダニー・トレホでもない限り難しいだろう。奴らの一撃は早くて重く、おまえが着ている服をやすやすと貫通し、死に至らしめるだろう。何度も、何度も……。
このゲームのボスはそこらの攻略動画を見た程度で倒せるほどやわではない。もちろんイージーモードなどという女子供向けの機能は付いていない。攻撃パターンを知り、そのタイミングを身体でおぼえ、見切って回避し、攻撃を叩き込む。おまえの与えるせこいダメージを一瞬でチャラにする凶悪な攻撃の数々を延々とさばいていかなければならない。
そうして戦いを制し、狩りを遂行したおまえはかつてない歓喜に包まれるだろう。喜びのあまりそのへんのちんぴらを殴って怪我をしたり、どこかの安酒場でテキーラを浴びるように飲み、酔いにまかせて見知らぬベイブとファックし、気がついたときには裸で路上に放り出されている……それほどまでに大きな高揚感と達成感を味わうことができるはずだ。
どうしてもボスに勝てない腰抜けのおまえには、最後の手段として協力プレイが残されている。目には目を。歯には歯を。屈強なメキシコ人には、より屈強なメキシコ人を。オンラインプレイ用の鐘を鳴らせば、異世界からやってきたメキシコ人がおまえを助けてくれる。仲間に頼るのは恥ではない。アントニオ・バンデラスさえも敵地に襲撃に行く前に仲間を呼び集めていた。勝つためには手段を選ぶな。
だが、このゲームはブラッドボーン……仲良しごっこのお遊戯をさせてくれるほど甘くはない。協力プレイをすると同時に、不吉な鐘の音とともに「敵対者」と呼ばれる狩人がやってくることがある。これはオンラインプレイでおまえを殺しに来たプレイヤーであり、おそらくおまえが見たこともない未知の武器を持っているはずだ。ゲーム発売から2年が経過した今も飽くことなく敵対プレイを行っているということは、すなわち長年鍛え抜かれた真のメキシコ人であり、奴隷バーを何年も回し続けて強くなったアーノルド・シュワルツェネッガーであり、間違いなくステータスや装備は対人用に特化されているのでまず勝ち目はない。
対人戦のことは忘れ、とにかくおまえはこのゲームを最後までクリアすることだけを考えろ。そしてエンディングの意味深さに呆然とし、あわてて考察サイトやら裏設定を読んで、どれだけ自分が多くのことを見落としていたのか愕然とすればいい。俺は愕然とし、このゲームの奥深さに触れてさめざめと涙を流した。この時代にこの傑作というほかない素晴らしいゲームをプレイできた幸運と、それを産んだメキシコの偉大さに感謝した。

つい最近、俺はDLC「The Old Hunters」をクリアした。DLCが出た直後に購入してダウンロードまではしていたが、今の今までプレイしていなかった。
忙しかったとかいろんな理由はあるが、それらはすべて言い訳に過ぎない。ブラッドボーンをとりあえず1度はクリアしたという過去の栄光に縋り、DLCに挑戦するのを心のどこかで恐れていたのだ。
だが俺は怯懦を乗り越え、一歩を踏み出した。真の男になるためだ。
DLCの舞台となる「狩人の悪夢」では、スタート地点の建物を出てすぐのところにいる狩人が見たこともない蛇腹剣のようなものを振るってきて即座に死ぬ。
赤い血のような英語で表示される「おまえは死んだ」という文字を見て、俺は久しぶりに怒りと喜びの入り混じった強い興奮をおぼえ、そして泣いた。早くこのDLCをプレイしなかったことを後悔した。
そう、まるでここはメキシコだ。全体的に砂漠っぽく、プレイしているだけで口の中が渇き、体力回復に使う輸血液がテキーラに見えた。ここには愛しさや優しさや心強さといった人間の善性は存在せず、フェイスブックやインスタグラムのような文明も存在しない。自撮りをする奴は死ぬ。
メキシコの住人は皆、右手に打撃武器、左手に銃器を持っている。あるいは両手に巨大なポールウェポンを装備しておまえを待ち構えている。本編と同じかそれ以上に何度もおまえは死ぬ。
けれどその死が、おまえを鍛え、少しずつ強くし、真の男へと近づけてくれる。

俺はDLCをクリアしたと書いたが、実のところDLCのボス撃破後、最後の最後でとあることをやり残しており、DLCのエンディングを見ていない。DLC武器を全部集めたトロフィーを獲得したことで浮かれ、歓喜のあまりテキーラを痛飲して、ホットなベイブとベッドで戯れ、その勢いでうっかり本編をクリアしてしまったのだ。本編をクリアすると自動的に次の周回がはじまり、クリア前には戻れない。当然DLCステージもクリア前の状態に戻っている。
ブラッドボーンの二週目はいわゆる「つよくてニューゲーム」だが、正確には「敵が超つよくてニューゲーム」であり、ようするに自分よりも敵のほうが強くなっている。ラスボスを屠ったプラス10武器であっても最初の町民を殺すのに数回攻撃しなければならず、町民の農具がかすっただけで即死する。生き延びるためにはほんの少しの油断も許されない。二週目のヤーナムは、いわば真のメキシコなのだ……。

俺はトロフィーを全部取るために二週目の地獄をクリアするつもりだ。延々とここまで読んだおまえはどうだ? つべこべ言わずにプレステ4を購入しろ。今なら異常なボリュームを誇るDLC入りのブラッドボーンが3000円とかで買える。セールのときは半額になったりしている。
それでも買わない奴に、もう言うことはない。カリフォルニアで享楽に満ちた日々を送り、子や孫に囲まれながら老人になり、自分が何者かもわからなくなるまで生きればいい。
だが、もしおまえが腰抜けでなくタフガイなのだと言うならば、今こそブラッドボーンに挑戦し、そのことを示すときが来たのだ。

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