奇跡なんかじゃない

2006/03/17

 職場で事故があり、予定していた送別会に出られなかった。

 事故は、例によって蟹がらみ。発破系亜種の蟹が混ざっていたらしく、突然網カゴごと蟹どもが爆散した。
 年に何回はそういうことがあるので、蟹を見張る場合は支給品の鎖かたびらを装備することがバイトの俺たちに義務付けられていたが、今日のシフトで入っていたイワン爺さんは、腰が痛むとか言いながら重い鎖かたびらを脱いで大きく伸びをしていた。運の悪いことにちょうどそのとき蟹が飛び散り、イワン爺さんの無防備な腹やら胸やらに蟹の破片が突き刺さった。
 さいわい爺さんの命に別状は無かったが、刺さった破片を抜いたり消毒したり、報告書を書いたり、掃除をしたりしているうちに送別会に出られなくなった。


 送別会は、なじみの同僚の女性のそれ。
 今月いっぱいで仕事を辞め、わりと西のほうにある訛りのキツい故郷に帰るらしいヤマナカさんとの別れを惜しむはずだった。
 彼女の訛りをもう聞けないのかと思うと、がらにもなく寂しさをおぼえる。
 今思えば、彼女の方言混じりの声を聞いて、俺はわりと癒されていた。方言使う娘さんって良いな、と思う。


 帰る途中、ひどい雨だった。
 しばらく前線を離れるイワン爺さんの代わりに、今月はひどい鬼シフトが組まれそうな気がした。
 どうしても気分が落ち込んだ。俺は左手に傘を持ち、右手に遅すぎる晩飯の入ったレジ袋をぶらさげて帰途につく。両手がふさがっていて、ひどく不自由だった。どうにも俺は、自由になれそうもなかった。両手がふさがっていて、このままじゃ何も掴めやしないじゃないかと思ったけれども、それでも雨は冷たく俺を湿らせた。

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コメント

  1. 成沢 | URL | -

    妄言……いや方言萌えは奥が深いッスね。
    ちょっと感情的になると出てしまう、さりげない訛りとかが良いです。

  2. 西郷隆盛子 | URL | -

    ご、ごわす! ごわすごわすごわす、おいどん!
    (訳:なにヨこの泥棒猫! 英語で言うならThief cat! 中国語で言うところの陰茎奪取的悪鬼! あんたなんかに成沢さんは似合わないんだから!

    あと九州のほうの方言、「おいどん」ですが地方の後輩から話を聞くに、「おい」部分がI、そして「どん」は複数を表現するとのこと。
    つまり「おいどん」はIではなくWEだということになりますね。
    同様に二人称「わい」は複数形になると「わいどん」になるそうです。
    だから鹿児島の料理店に行って無頼を気取り「おいどんには芋焼酎、大瓶で」と注文すると人数分の芋焼酎が瓶で出てきてげんなり。なんてことにもなりかねません。個人的な好みで言わせてもらえばあんまうまくないし。アレ。

    以上、現場から西郷がお送りしました)

  3. 坂本竜馬子 | URL | -

    ぜよ、ぜよぜよぜよぜよぜよぜよ!
    (訳:こんにちは、坂本です。
     蟹を見張るアナタの凛とした横顔を見たときからずっと気になってたんだけど、
    「ナリサワさん、こんなカッコイイんだからアタシとなんかじゃ釣り合わないかな」
    って。あきらめてました。

     でもナリサワさん、「方言使う娘さんって良いな」なんて…。アタシにもチャンスある、かな?)

  4. 右手首 | URL | -

    メタファーしきれてないよ…
    ああ、もう!

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